第31話 ゴブリン達の襲撃

「インストール!」


七志の唱えた呪文により白色魔法『ヒール』の魔道書の内容が七志の脳内にコピーされる。

完了までには少し時間が掛かるのでその間にアントンは周囲の警戒、ルナはゴブリンの討伐部位である右耳を切り取っていた。

ゴブリンに関しては素材には期待が出来ないのだ。

肉は不味く人型と言う事もありなにかに使える素材も特に無い、唯一レアなアイテムを所持しているゴブリンも居るのだがそれは大体冒険者から殺して奪った物である。


「ちっ、2匹こっちにゴブリンが向かってる・・・」

「こっちの事バレてる?」

「いや、まだ気付いては居ないみたいだ・・・」


草に隠れながらルナと迫るゴブリンに警戒する。

七志は魔道書をコピーするので手一杯で身動きが取れないので二人は緊張した表情でゴブリンの動向を見守る。


「ルナッ!」

「えっ?」


草むらで横に居たアントンが突然声を上げてルナを突き飛ばした!

驚くルナであったがその瞬間自分が立っていた場所を押したアントンの左腕に矢が突き刺さる!


「ぐあっ!」

「アントン?!」


なんと横から弓を持ったゴブリンが二人を狙っていたのだ。

左腕を射抜かれたアントンは矢を引き抜いて右腕を次の弓矢の準備をしているゴブリンに向けて唱える!


「ファイアアロー!」


矢を放たれる前に反撃をする為、無詠唱の魔法を放つ!

無詠唱によりその攻撃力は20%まで落ちるが遠距離攻撃を防ぐ為なので最善手であろう。


「ギギギッ!」


飛んできた火の矢を肩に受けて痛みで声を漏らすゴブリンだったが、それ程ダメージは無いのに気付き嬉しそうに悪意在る笑みを浮かべる。

そして、アントンの声で正面に居た2匹のゴブリンにも二人は発見されてしまった。


「ギギガァ!」

「ギャギャッ!」


手にした石を振り被って走り出すゴブリン2匹、左腕を怪我しているアントンはルナの手を引いて走り出そうとするが七志がまだ残っているのを思い出しルナを突き飛ばす!


「ルナ!お前は助けを読んで来てくれ!ゴブリンがいきなり3匹も現われるなんて異常事態だ!」


そう、ここの森の浅い部分ではゴブリンは基本的にやって来ない。

理由は冒険者が直ぐに討伐するからである。

ゴブリンのように雑食で人型の魔物は畑を荒らしたりするので討伐報酬が多めに設定されているので見つけたら優先して討伐されるのだ。


「でもアントンその腕・・・」

「ナナシがヒールを使えるようになったら逃げながら回復してもらうから行けっ!」

「わ・・・分かった」


ルナは一人森の外へ向けて駆け出す。

そして、アントンが自身の左腕に視線をやる・・・


「ちっやっぱりか・・・」


矢が刺さった部分がどす黒く染まり始めていた。

先程の矢にゴブリンの糞尿と言った物を混ぜた毒が付けられていたのだろう。

痛みで殆ど動かない左腕を庇いながらアントンは七志の方へ向かう。

自分はもう駄目かもしれないと理解しているのだ。

矢の傷から入った毒を解除するには白色魔法『キュア』が必要なのだがルナでないと使えない。

しかもあれは落ち着いた場所で使用して効果が完全に出るまで少し時間が掛かるのだ。


「ナナシだけでも・・・」


一瞬フラついたアントンは頭に右手を当てて意識をしっかり持つ。

毒は確実にアントンの体を蝕んでいたのだ。

そして、アントンが七志の所に到着し振り返った時にゴブリンが3匹同時に二人に迫る!


「やらせねぇよ!「黒の魔法 火の力よ我が前に獲物を追い返す燃やす火の奇跡を!ファイアーウォール!」」


ゴブリンの目の前に火が噴き出し壁となる!

だがその厚みは殆ど無く無理やり通ろうと思えば余裕で通過できる程である。

少し、後少しで七志のインストールが終わる。

そうすれば七志は逃げせるとアントンは考えて少しでも足止めになればと考えたのだ。

だがゴブリンはその火の壁に驚き予想外の行動に出た。


「なっ?!」


手にしていた石を投げつけて来たのだ。

当然石は火の壁を通り抜けそのまま魔道書を持ち立ちつくしている七志目掛けて飛んでくる。

無意識であった。

左腕は使えず火の壁を出し続けるために右手は前に翳しているアントンは七志の前へ飛び出していた。

そして、その石を頭部に喰らってそのままゆっくりと倒れる・・・


「ギャギャッ!」


嬉しそうに石が獲物に当たって喜ぶゴブリンは投げた石のおかげで火の壁が消えた事に更に喜ぶ。

ゴブリンは雑食だ。

勿論、人間も食べる。

基本的に雄は殺して食べて雌は繁殖の苗床とする生態なのである。

そして、3匹のゴブリンはアントンに襲い掛かる。

腕に刺さった矢のせいで毒が全身に回りきる前に腕を切断しようと考えているのだろう。

倒れたアントン目掛けて削って尖らせた石のナイフの様な物を振り上げる。

アントンは倒れたままピクピクとしており身動きが取れない。


「ギャギャー!」


振り下ろされた石ナイフがアントンに刺さる直前であった。

ゴビュッと言う音と主にゴブリンの腕が根元から外れて後ろへ転がる。

一瞬何が起こったのか分からないゴブリンは固まってしまった。

目の前にインストールを終えた七志が立っているのにも関わらず動けなかったのだ。

一体自分が何をされたのか分からず切られた腕から噴出す血だけが動いていた。


「死ねっ!」


七志の殺意の篭もった声と共にゴブリンの首から血が噴き出しそのまま倒れる1匹のゴブリン。

後ろまで迫っていた2匹も一体何が起こっているのか理解できず七志を警戒する。

そして、その手に握られていた物に気が付いた。

それは1本の剣であった。

斬撃にしては余りにも切れ味が良すぎるそれに警戒をするゴブリン達・・・

自身が不利と判断しそのまま二匹は逃げ出した。

それを見送り七志は倒れたアントンに駆け寄る。


「アントンっ!くそっ間に合えよ!黒の魔法 火の力よ我が手より全てを照らす火の奇跡を!ファイア!」


七志の魔法によりアントンの全身を火が包み込むのであった。

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