第27話 全裸は複線であった!

『企業案件』


それは人気ユーデューバーに企業から商品のタイアップを行なってもらい動画内で商品の紹介をしてもらう事で料金が支払われるシステムである。

基本的に登録人数と一定期間の再生回数で料金が決まる説や企業側から提示されている説などが在る。



「ご主人様に…この身捧げます…どうか死ぬ時まで一緒に…」


「貴方を愛する奴隷と共に世界を巡れ、ファンタジー界の新星!ワールドファンタジーオンライン…ご主人様…私を愛して下さいますか?」



アデルの様な銀髪で髪の長い女性が動画内でこの台詞を使う事が企業からの条件であった。

と言うのもこの紹介されている『ワールドファンタジーオンライン』と言うオンラインゲームのヒロインが銀髪ロングヘアだったからである。

七志がアデルに依頼して撮影されたこの動画はゲーム動画を加え嵐によって編集され早速公開された。

勿論初の案件動画と言う事で今までの動画が全て作り物と判断されコメント欄は大いに荒れた。

だが荒れたと言う事はそれだけ見ている人が多く、商品の紹介を行なったのは異世界感をぶち壊したのだが結局の所撮影現場や魔法の映像加工の方法等について誰一人証明出来る者が居なかった。

それがまた他のサイトで論じされ動画の再生回数はうなぎのぼりでとんでもない事となっていた。


そんな中、一人の書き込みが一つの問題を引き起こす事となっていった。






アインの街から出て街道を進む数名の人間が居た。


「それで仕込みは完璧なのか?」

「あぁ、後はコレに魔力を送り込めば・・・ドカンだ」


賭場の強面の男達と奴隷屋マムであった。

彼等も結託しており賭場を潰した七志に復讐を考えていたのだ。

その内容がまた酷かった。


「それにしても魔法衣をこんな使い方するなんてな」

「元々は逃亡防止の物なんですがね、思い付いた時は思わずニヤけましたよ」


そう、奴隷屋の奴隷には全てこの魔法衣が着せられていた。

一見ボロ布なのだがそれは魔法で作り出された物で、鍵となる物に魔力を通す事で指定された魔法衣を爆破させる事が出来るのである。


マムの作戦はこうであった。

まず七志にアデルを買わせる、そして瀕死のアデルを延命させる為に七志はきっと様々な手を尽くして助けようとするだろう。

それはアデルの家で彼女に手を掛けなかった事から分かる。

そのアデルの容態が悪くなるタイミングは最後にポーションの使用したタイミングから予測されていた。

既にアデルの腹部を切り裂き内臓の一部を摘出し確実な死が迫るように仕込まれていたのだ。

最後に死にそうになったアデルを看病する七志ごと魔法衣の爆発に巻き込んで殺す。

これが今回マムが計画した内容であった。


「流石マムさんおっかねぇ」

「何を言ってるんですか、貴方達が不甲斐ないからですよ。今回の白金貨100枚分の損失はなんとしても回収してもらいますからね」


そう宣言しマムは指輪の宝石を撫でる。

それこそがアデルの着ていたボロ布の魔法衣を爆破させる物であった。


「それではさようなら」


マムは魔力を流す。

きっと今頃アインの街の何処かでアデルと共に七志は爆死していると考え嬉しそうに笑うマム。

彼らは知らない・・・七志の詐欺魔法の事を・・・








『七志のファイアーは『時間焼却』なのに何で全裸になったんだ?服は何処行った?』


この書き込みからコメント欄は大荒れになっていた。

誰一人真実を知らないので仕方ないだろう。

七志がファイアでアデルの肉体と共に魔法衣も過去に戻されていた、当然魔法で作られた衣類は魔力に還元され魔素として空気中に散った為にアデルはファイア使用後全裸であったなどと誰にも予想出来なかった。

本来なら回避不可能な筈のトラップだったのだ・・・







『OK完璧だったよ、もう動画上げてるからお礼を言って報酬渡しておいて』


嵐からの念話で七志はアデルの演技が完璧だったと了解を得た。

七志は嵐の世界が違う時間軸で動いている事を理解しているので話が早かった。


「お疲れさん」

「あんなので良かったの?」

「完璧だよ、それじゃこれ・・・報酬だよ」


そう言ってアデルに七志は白金貨2枚を手渡す。

それに目を疑うアデル。

それはそうだろう、七志に言われた言葉を誰も居ない方向向いて一人で話しただけなのだ。

それで白金貨2枚もの大金をもらえるなんて納得出来るはずが無い。


「ど、どういう事なの?!」

「う~ん・・・説明しても理解できないと思うけど、一応さっきのアレで儲かったお金があってねそれの山分けって事さ」


正確には企業案件での報酬はそこまで高くない、だがこれから更に再生される事で広告収入は更に加算される。

嵐の方で動画の平均再生回数を計算したら3人で山分けして大体600万円くらいは最終的に儲かると判断した為その3分の1をアデルに手渡したのだが・・・

企業案件所かユーデューブどころかインターネットすらない世界の人間にそんなモノが理解出来る訳が無かった。


「い、意味が分からないんだけど・・・」

「う~ん・・・とりあえずアデルさえ良かったらこんな風にお願いする事があったら報酬払うからやってほしいんだけどどうかな?」

「納得は出来ないし意味も分からないけど・・・」


そう言って手にした白金貨をチラリと見て小さく返事をするアデル。


「やる・・・」


そもそもアデルにとっては家すらも無い状態でお金が稼げる手段が在るのであれば飛びつきたい状況である、更に了解しておけば七志との接点が出来て今後も普通に会う事が出来る。

メリットは大量にあるがデメリットが全く無いのである。

この世界でいくら知名度が上がっても有名人として観測者の世界の人間にストーカーされる事も無いし気楽なものであった。


こうして誰一人困る事無くマムの仕掛けた罠も回避した七志。

アデルが七志の後を追い掛けて同じ宿を取っていたりするのだが七志はそれを知ることは無かった。

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