第18話 ボブ一家の破産
「ただいま~」
少年は誰も居ない家の中へ入る。
茶髪のチリチリ頭をガシガシかきむしりながら台所へ行ってタンクの前に立つ…
「黒の魔法 水の力よ我が手より豊かな恵みの水の奇跡を!ウォーター!」
タンクの中へ魔法で水を産み出しタンクを一杯にする。
魔育園のボブは水魔法が得意なのだ。
そして、次に風呂場で同じように魔法を使って風呂の準備をする。
もうじき帰ってくる父親の為に支度をしているのだ。
ボブの母親は家の借金を返済するため夜の仕事をしている、全ては父親が騙されて借金を作ってしまったのが原因であった。
「おう、今帰ったぞ」
「親父…おかえり…」
「なんだ?まだ飯の用意も出来てないのか?」
酒臭い口から罵声が放たれてボブは父親を睨む。
だが酒を飲む金をどこから用意したのかが気になったボブは父親に訪ねる。
「酒なんか飲んできて…その金どうしたんだよ?」
「あぁん?ひっひっひっ喜べボブ!うちの借金を一気に支払い終える方法が見付かったんだ」
また胡散臭い話を聞いてきたのだと呆れつつもこれ以上借金を増やされたら困ると考えたボブは父親の話に耳を傾ける。
「名付けて、半丁賭博必勝法だ!」
半丁賭博とは3個のサイコロを振って偶数か奇数かを当てるこの世界の博打である。
合計が2で割り切れるものを丁度割り切れるから『丁』割り切れないのは半分にならないから『半』と呼ばれる。
「またギャンブルかよ!もう止めてくれよ親父!」
「馬鹿言え!絶対勝てる方法なんだぞ!」
自信満々のボブの父親はその夜、ボブが寝ている間に賭博へ行ってしまう…
「こ…こんな筈じゃ…」
ボブの父親が教えられた必勝法とは2回続けて同じ結果が出た次の勝負に参加して逆に賭けると言うものであった。
つまり半が2回続いたら次は丁の確率が倍以上になるのでそこに財産の3分の1を張れば確率的に持ち金は増えるという考えであった。
そして、現在3分の2を失っていたのだ。
「つ…次こそは…」
既に4回続けて丁なのだ、次こそは半が出ると考えたボブの父親は残りの財産を全部半に賭けた。
「よござんすね!」
振り手がサイコロを器に入れて蓋をする!
サイコロの転がる音が止むまで誰もが蓋のされた器を見つめる…
「はい!3.4.1で丁です!」
「う…嘘だ…」
その場に崩れるボブの父親、この勝負のため自宅まで担保にして借金をして今回の金を用意したのにも関わらず結果は惨敗であった。
実は全て仕組まれていたのだ。
ボブの父親にこの話を教えたのも賭場の仲間、家を担保に金を貸したのも仲間…
「お客さん、お帰りはあちらですぜ」
まるで夢遊病患者の様にボブの父親はフラフラと歩く…
そして背後から聞こえる次の勝負の結果…
「1.5.3の半!」
それを聞いてボブの父親は泣きながら帰った。
翌週には利息込みで全額返済しなければ自宅を差し押さえられ追い出される。
その恐怖にボブの父親は自宅で布団に潜り翌朝も出てこず仕事にも行かなかった…
朝、起きたボブは玄関に在った紙を見て、父親の姿を見て絶望する。
玄関にはご丁寧に借金の借用書の控えがセットされていたのであった。
ナナシがファイアの検証をしている日に起こった出来事である。
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