第8話 エルとの出会い

街道を進み七志は通り掛かった商隊と出会い情報交換がてらアデルの所で拝借した要らない物を売って傷薬や火打石を購入していた。


「毎度あり~気をつけてな~」


商人にとって旅人も良い客なのだろう、一応盗賊の場合を警戒して数名が周りを見張っているのが新鮮だった七志は商人から聞いた町の方向を目指して歩みを進める。


『おい、七志凄いぞ!』

「ん?どうした?」

『『女狩人を逆に返り討ちにしたった』って動画のアクセスが鰻登りだ』

「ははっまぁ人気なら良いさ」


そんな暢気な会話をしながらまるで携帯電話で話しながら歩いている様な七志。

きっと独り言を言っている怪しい人に見えているに違いない。


「あっあれが町だな」


道の先に見えた大きな壁。

モンスターが居るこの世界ではやはり街は壁で囲われているらしい。

目的地が見えた事で少し足取りが軽くなった七志であったがそれでも疲労は結構溜まっていた。

元々現代人である七志にとって長距離をひたすら歩くと言うのは中々慣れない。

きっと明日は筋肉痛だろうと考えると宿でゆっくりするのを考えていた。

そして、街に到着し門の入り口で一人ずつ調べられていた。

やはりここも盗賊と言った者を中へ入れない様にしているのだろう。

誰でも素通りの某RPGとは大違いである。


「はい、次の方。珍しい格好だな旅人かい?」

「あっはい、通行証はこれで良いですか?」


七志はアデルの所で入手した通行証を提示していた。

これは嵐の方でフォルダに入っていた物を調べてもらったら個人を特定する物ではなく所持者を通して貰える物だと言う事が分かった。盗難されてもOKとかどういう事なの?!


「んんっ?あぁ領主様の発行のやつか、なら通っていいぞ」

「ありがとうございます。」


そう告げ七志は無事に街に入ったのであった。


「・・・すげぇ・・・・」


七志は門を潜って中央通を見て感動していた。

まさに中世ヨーロッパを思わせるその光景は日本で暮らしていた七志にとってとても美しく見えた。

賑わう街中を真っ直ぐに歩き5分くらいだろうか、大きな噴水が噴出す場所に出た。

その前では一人の少女が芸を披露していた。


「なん・・・だありゃ?!」


水芸と呼べばいいのだろうか、空中に浮いた水が流れ踊り形作り崩れ分離して空に飛散して虹を作る!

魔法を使った芸なのだろう、通常ではありえない動きを見せるその光景に七志は固まった。

幻想的でしかも美しいその動きに魅了されているとその少女が笑顔でこちらを見て手を振った。

七志は照れながら手を振り返す。

だが驚くべきは周囲の人の反応だろう、まるでその芸に興味が無い様にチラリと見ては素通りしていた。

この世界の魔法技術がそれだけ凄いと言う事なのだろうか・・・


『あぁ、魔法は魔道書をインストールしたら適正があれば誰でも使えるから珍しくないんだろう』


脳内に嵐の言葉が届き一人納得した七志は少女へ近付く。

近付けば自分よりも10センチほど低いその身長の少女がさっきのあれを披露していたのだと理解して更に驚いた。


「凄かったです!」

「ありがとうございます。」


頭を下げる少女に銀貨を1枚差し出す。


「おひねり・・・何処に入れれば良い?」

「えっ?」


いまいち伝わらない事を理解し七志は言い方を変えた。

多分この世界ではこういう公共の場で芸を披露して金銭を貰ったりするのは駄目なのかもしれない。


「旅してこの街に流れ着いてさ、宿の場所教えて欲しいんだよね」

「あぁ!」


案内代と言う事にして彼女に銀貨を1枚手渡し七志は彼女に連れられて歩いていく・・・

綺麗な町並みを通り抜け少し裏通りに入ると商店よりも住居が並ぶ通りに出て七志は1軒の宿の前に到着した。


「ようこそ、アインの街の宿ノースへ。看板娘のエルです」


ひらりと回転して裾の両端を摘んでお辞儀をしたエルの仕草に見とれてしまった七志は慌てて笑顔を作って。


「七志です。暫くやっかりになると思いますが宜しくお願いします」


そう返し宿の中へ足を踏み入れるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る