カノアとの出会い
第22話 獣人猫族との出会い
魔獣や獣を倒しながら森の中を進む一行は、既に南北に拡がる大陸の中部地方にまで達しているようだった。カッツェが磁石や太陽の位置で自分達の位置を確認し、地図と見比べながらノエル達にそう教えてくれた。
*
最初に異変に気付いたのは、エルフ族の聴覚を持つレイアとヴァイスだった。先にレイアが、少し遅れてヴァイスが、気配を感じた方向へと耳を傾けた。
「……どうかしたか?」
カッツェが二人の様子に気付いて、歩みを止めた。二人ともエルフの耳をひくひくと動かして何かの気配を探っているが、それが「何」なのか確信が持てないようだ。ヴァイスはレイアに目配せをしながら、口を開いた。
「レイア、少し様子を見て来てもらえ――」
ヴァイスの言葉が終わるか終わらないかのうちに、レイアは目線で頷き、すっと音も無く気配を消した。先ほどの物音の原因を探るため、その場を離れたのだ。いつもながら彼女の動作は素早い。それに
二人のやりとりを見ていたカッツェが、すっとんきょうな声を上げた。
「んんっ? 何だ今の! お前ら、いつの間にそんな関係に?!」
「……一体どんな関係ですか。エルフは
ヴァイスは律儀に否定している。が、言葉も交わさず互いの意思を伝え合う様子は、さながら熟年の夫婦のように見えなくもない。これが
「それって、やっぱり二人は仲が良いってことじゃん♪」
ノエルも混ざって茶化すと、ヴァイスは困ったように肩をすくめて笑うのだった。
*
ほどなくして、ざざっという音とともにレイアが戻った。
「どうでした?」
「危険は無い、だが――」
彼女にしては珍しく、困惑の表情を顔に浮べている。軽く首を傾げ、銀色の髪が肩に落ちた。形の良い眉は、困ったように少し歪められていた。そしてぽつり、と次の言葉を吐く。
「――猫が」
*
レイアに案内されて到着した一行が見たのは、予想外のものだった。
大きな木にぶら下がる、大きな網。その中でジタバタと暴れていたのは、オレンジ色の巨大な猫――ではなく、半人半獣の『獣人』の子供だった。
「ニャーー! 旅人さん、良いところに来たニャ! ここからボクを下ろしてくれニャ!」
網の中の子供が涙ながらに訴える。その声はまだ幼なかった。
「……可哀想だし、下ろしてあげようよ! 敵じゃないよね?」
ノエルは、自分より幼い子供が網に掛かっている姿を見て、真っ先に同情した。事情は何であれ、目の前の子供から危険な気配は感じられなかった。きっと迷子に違いない。
*
ヴァイスが木の下から指示を出し、カッツェとレイアがすぐに動いた。
レイアが木に上って縄を切り、カッツェが下で網ごと受け止めて、獣人の子供を無事地面に降ろす。
「……ふにゃっ!」
網から出た獣人の子供は、猫のようにぶるぶると体を震わせて、自由の身になれたことを喜んだ。
「いてて……ありがとニャ、助かったニャ! ボクは、カノアっていうニャ!」
ぴょこんと立ち上がったその姿は、小柄なノエルのさらに胸あたりまでの身長しかなかった。
見た目は人間の七~八歳程度。黄色の毛皮でできた、短い服を着ている。
ピンと立った三角の耳に、ゆらゆらと揺れるしっぽ。拳を握りしめたときに指先から飛び出る爪は、正に猫のものだった。
「
ノエルは少し興奮してはしゃいだ。
獣人猫族は獣人族の一種で、人族と獣族の中間のような性質をもつ種族だ。猫族以外にも多くの種族が存在するが、大抵は深い森の中など自然の多い場所に住んでいて、人里にはあまり顔を出さない。特に獣人猫族は寒さが苦手なので、ノエルが住む北の地ではほとんど見かけたことがなかった。
「あなたが掛かっていたコレ、猪か鹿用の
「ニャ~、ボクは道に迷って罠に掛かってしまったニャ。もう三日三晩、何も食べてなくて……お腹が空いて死んじゃうかと思ったニャ」
話しながら既に、ぐーーっとカノアのお腹が鳴っている。
「仕方がない。こんな場所に子供を置いてはいけないし、どこか安全な場所まで連れて行こう」
「ニャー! 恩に切るニャ!」
カッツェが持ち前の正義感を発揮して、カノアをパーティーに加えた。
こうしてこの小さな獣人猫族の少女は、ぴょこぴょこと一行に同行することになったのだった。
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◆冒険図鑑 No.22: 獣人族
獣人族は、人と獣の中間のような種族である。各種族ごとに、獣の特徴を引き継いだ容姿を持つ。たとえば耳と尻尾、
人族よりも身体能力に優れているが、魔力は少なく、魔導術を使えるものはほとんどいない。
大抵は、獣人族同士で村や集落に住んでいる。それは彼らの寿命とも関係があるらしい。
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