第61話 燕
久しぶりに土を踏んだ。
初夏の風も。
午後の
頭上を
港はいつもと変わらない。
荷降ろしを監督した。
最後の荷を積んだ
店の前の
荷を蔵に入れるように言いつけてから、店に入る。
おかえりなさいませ、と、
足を
そこでやっと、店の者たちの表情に気づいた。
皆、
はっとした。
足音
廊下ですれ違う者たちがすっと
台所へ入ると、そこは戦場だった。
半年振りにこの店の主が異国から戻ってきた。
今夜は夜通し宴会だ。
もうもうと
ユライを深く被った女が
皆の視線を感じて顔を上げた。
「えへっ。」
照れ隠しに笑った。
「ほんとは、お出迎えしなきゃならなかったんだけど、ちょっと、行きづらくって……。」
男はつかつかと女に近づくと、その腕を引っ張って
女は
そのまま、険しい表情で女をぐいぐい引っ張っていく。
ユライが解けて、はらりと廊下に落ちた。
艶やかな黒髪がぱさりと広がって、腰まで
周りの人々が、さあっと潮の引くように避ける。
「あ、あのっ、ちょっと……。」
自分の部屋に女を引き入れた。
突き転ばして、後ろ手に
自分も、がくっと
肩が細かく震えている。
食いしばった歯の
(泣いてる)
手を肩に置いた。
懐かしい髪を
相変わらずさらさらして指通りがいい。
「おかえりなさい、リコ。」
耳元で
男の肩がぴくりとした。
「そうよ、あたし、帰ってきたのよ。」
突っ伏した頭に、自分の顔をそっと載せた。
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