第117話 深淵
皆を先に行かせて、秀吉は
城の奥深くに忍び込んで、暴れるとは。
一体、どういう奴なんだろう。
すっかり後片付けも済み、
ところが、誰も居ないはずの
ちゃりーん、ちゃりーん、という音も聞こえてくる。
小姓たちは
一人は
秀吉は、小姓が取り落とした灯をあやうく空中で
気を失っている。
秀吉とて老いたりといえども、何度も
「何者か。名乗れ。」
「
音が止んで、声がした。
「かような
しわがれた男の声だった。
段々、暗闇に目が慣れてきた。
誰か上段の間の、自分の席に座っている。その周りが妙にきらきらと明るい。
「こっちに
他人に命令し慣れている人間の声。
(
身体が勝手に動いていた。
背を丸め、ちんまり座っている。
老人は
「城というのも久しぶりじゃが」
金を落とした。
ちゃりーん、と鳴った。
「変わったかと思ったが、いやはや、変わらんの。」
又、ちゃりーんと音をさせた。
「
でも、こうして座って見る景色は、と老人は言った。
「思ったより大したことは無いのう。」
又、金を落とす。
「わしから見れば、ぬしも小僧っ子じゃが。」
ちゃりーん。
「そなた、能を作ったり
図星だった。
「そっ、そちっ、何者!どうやって、ここに入った!」
老人は気にも留めない。
「わしも金を作ったものじゃ。大判小判は
「だ、誰か、おらぬか!」
叫んでもどういうわけか、誰も来ない。
薄気味悪い老人は続ける。
「しかしこのような夜半、ふと心の端をよぎる恐怖も又、下におったときには感じなかったものじゃ。誰かその暗闇から現れて、わしの
「た、頼む……。」
腰が抜けそうだ。
「去ってくれ、頼む……。」
ヒェッ、ヒェッ、ヒェッ。
老人は笑った。
ぬめぬめと赤黒い
底知れぬその暗闇に今にも吸い込まれる、そんな錯覚を覚えた。
「ば、化け物!」
泣くような声で
ぱっと煙が立って、見る見る部屋を
老人はかき消すように居なくなっていた。
遠くからバタバタと駆けつけてくる足音を聞きながら、
「
猿若が言った。
「お
「かけておったのよ。」
信虎は又、笑った。
「
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