第45話 扇
十月には秀吉の主催で、大徳寺で故主・信長の葬儀が盛大に
だが
天下の
「当たり前じゃ。」
さすがに菊が抗議すると、信虎はけろりとして言った。
「わしが紹介してやらねば、御所なんぞ、とてもじゃないが、上がることは出来なかったじゃろう。仲介料、じゃ。」
それで、はいそうですかって引き下がって来たの、呆れてものが言えないわ、と松にさんざん
「あの方も台所事情が苦しいようですわ。駿河に追い出された後、先代がずっとあの方の生活費を送っていらっしゃったのです。それは兄上に代替わりしても続きました。都の周辺に小さな領地をいくつか持っていらして、そこからあがる収入で細々暮らしていらっしゃるのですが、武田が滅んだことで
「私たちが新しい金づるというわけね。」
菊はため息をついた。
「道理で、いろんな話を持ってくるわけだ。」
京に来て一年たつ、そろそろ布袋屋から独立したらどうじゃ、と彼女を
何、いくらか金を納めればよい。
「今度は何をたくらんでいるのかしらん?」
技術的には心もとなく、手持ちの金も乏しかったものの、一刻も早く自分の店を持ちたいのは菊とて同じだった。子供たちが心配だったからだ。
昼間、大人たちが仕事に出かけてしまうと、子供たちは近所で
菊が方々無理をして自分の店を持つようになったのは、布袋屋に勤めて一年半たった頃だった。具体的には、今住んでいる家の正面に新たに、通りに張り出した棚を作った。今でいうショーウインドーで、そこに商品を置いて道行く人が手に取って見ることが出来るようになっている。あちらこちらに頭を下げ、
とはいうものの、商売はあがったりだった。
家内工業的に商われている扇の売れ行きはたいしたものではなかった。大きな商売を牛耳っているのは、元の勤め先の布袋屋や同じく小川に店を構える
信長
地方では戦乱が続いていたが、もう京に戦火が及ぶことはなかった。平和が続くと、人々は少しずつ生活を豊かにすることに目を向けるようになった。
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