第36話 御末広師
土木工事が得意な信長は町を整備し、同業組合である座をなくす楽市楽座の制度を、自分の勢力の及ぶ地域から順々に敷いていって、商売を自由にした。町や村を支配する領主たちが滅ぼされて戦がなくなると、人々は安心して耕作や商売に励み、生活の安定は更なる向上への望みを生んだ。人手はいくらあっても足りなかった。仕事はよりどりみどりだった。
信長によってひどい目にあった菊たちが、信長の経済振興政策によって助けられるのは皮肉な話だったが、今はそんなことを言っていられない。人々はそれぞれ働きにでた。ある者は工事現場で働き、ある者は市に行って物売りの手伝いをし、ある者は織物の作業場に雇われた。
「で」
菊は考えた。
「私は何をすればいい?」
「決まっているじゃない?」
「あなたはね、『
「『
「そう、パタパタする、あの、
「そんなの、私にあってるかしら?」
「じゃあ、私はこんなことするのがあってるっていうの?」
松は、自分が今、縫っている
「扇屋で絵付け職人を探しているそうよ。偉そうに言ったって、あなたに出来ることなんか絵を描くことくらいじゃない。さあ、さっさと行って!私、今日中にこれを仕上げてしまうつもりなんだから。」
京の町々では扇売りが、
「
と売り声をあげながら
菊は、揚羽と
とはいうものの、こんな大きな店は珍しいほうで、たいていの店は
扇の作業工程は細かく分かれていて、それぞれの作業を行う者は決まっている。大きな店になるとたくさんの職人を雇い、扇の骨を
菊は絵付けの仕事を任されるようになった。逍遥軒信廉に厳しく仕込まれた菊の絵の力は確かなもので、主人は彼女がその場でさらさらと描いてみせた花や鳥の絵を
しかし扇絵は、今まで彼女が
姫君だった頃、数え切れないほど所持し、何気なく使っていた扇が、その形はこれ以外では実用に適さないというほど数学的に完成されたものであり、小さな扇一本作るにもたくさんの人々の
彼女は絵のことになると夢中になれるし、飲み込みも早かった。でも職人の修業は、実際に作品を作りながら
皆が働きに出るようになったおかげで、少なくともその日の食に事欠くことは無くなった。身なりも貧しいながらも一応整えられるようになり、
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