第1話 善光寺
海音寺潮五郎先生を
秋日 Helbsttag
主よ 時です まことに夏は偉大でした
いまこそ 貴方の影を 日時計の上に投げ
野に 秋風を 吹かしめ給え
残れる果実に 最後のみのりを命じたまえ
そしてなお 二日の温暖を恵み
かれらを 成熟へとはしらしめ
やがて 最後の 甘き果汁もて
リルケ 形象詩集 より 山本太郎訳
山国の秋は早い。朝晩吹く風の冷たさで季節の変わったことを知る。でも昼間の
今から五年前の天正元年、
この春、隣国・
このところ暗い話題ばかりだった甲斐に久々明るい
ところが市へ向かう人の列がいつもより
「何でも
「
「ほんに、当代になってからというもの、住みにくい世の中になったもんじゃ。」
突然、
「銭も無いのに、この関を通れるわきゃなかろうが!」
「わしら、この荷を売って銭を作ります、帰りには必ず払いますで……。」
荷車を押す枯れ木のような老人と、七つ八つばかりの
押し問答が続き、番兵が老人を突き飛ばした。よろけた老人は荷車に当たって転び、積荷の
「おやめなさい。」
よく通る声が
「弱い者いじめは良くないわ。」
「誰だ、出て来い!」
番兵が怒鳴ると、
身に
「帰りに払うって言っているんだから通してあげなさい。だいたい、天下の往来でしょう。通って何が悪いの。」
そうだ、そうだと群集が
「な、何じゃあ、こいつぁ……。」
突然出てきて偉そうに命令する娘に、あっけにとられていた番兵たちも、ようやく体勢を立て直して反撃に出た。
「お屋形さまがお作りになられた関所じゃ、お前はそれに逆らうというのか。」
「だって、私がこないだ通りかかった時には何も無かったわ。こんな所に思いつきで関所を立てられては、皆たまったものではないわ。いったいどうして、こんな事考えついたのかしら?」
番兵たちはただ、上に言われて仕事をしているだけだ。
と、そこへ、何頭もの馬の
見物人の垣を分けて到着したのは数人の騎馬武者だった。後から槍を立てた足軽の一群が続く。先頭に立った若い侍が番兵を叱りつけた。
「待て!乱暴するんじゃない!その手を離すんだ!」
関所の責任者らしい侍が飛び出してきて、
その
少年は立ち去ろうとしたが、荷車に手を突っ込んで籠を取り出し、駆け戻ってきた。
「有難う。」
手にした籠を娘に押し付けると走り去っていった。
娘は籠を
「まあ、見事だわ……。」
葡萄に見とれていた娘が、ふと気配を感じて振り返ると、あの若い侍が
「困ります、姫君。」
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