良い顔いただきました

叢雲前線

第1話顔

 いやぁ、よく来たね。歓迎するよ。ちょっと中に急病人がいてね。何? それなら帰ります? 大丈夫、大丈夫。ちょっと顔にケガをしているだけだから。それに、奥の部屋にいるから心配ないよ。

 今日は、新しいお話ができたから是非、聞いてほしくてね。これは私の中でもかなりの自信作なんだ。今、ちょっと、キリンさんが席を外していているんだ。是非、感想を欲しいんだけど大丈夫かな。何なに? 大丈夫、そうか、それは良かった。



 そうだ、本題に入る前に話しておきたいことがあるんだ。君はこんな話を知っているかな。

 この島の外での話なんだけどね、あるところに体の弱い若者がいたそうだ。なんでも、体に大きな病を持っていたらしい。それで、その病を治すために大きな手術をしたんだ。手術は成功。その若者は一命を取り留めた。良い話だろう? でも、この話はそれだけでは終わらないんだな。その若者は一命は取り留めたものの、大きなハンディが残ってしまった。顔がね、ぐしゃぐしゃになってしまったんだよ。薬の副作用が強すぎたらしい。これには医師も手の施しようがなかった。それで、若者はいじめっ子達の格好の餌食さ。みんなが寄ってたかって彼をいじめた。それからだね、彼がおかしくなってしまったのは。いつもは臆病な性格だった彼は驚くべき方法で、いじめっ子に復讐し始めた。復讐なんてするタイプじゃなかったのに、悪魔に取りつかれたのかもしれないね。 何? 早くどうしたのか聞きたい? 焦らない、焦らない。ここが一番大事な所なんだから。

 なんとね、友達の顔の皮を剥いだのさ。そして、若者は剥いだ顔を自分の憎たらしい顔に張り付けた。勿論それで、自分の顔が変わるわけでもない。余計にぐしゃぐしゃになっていく。だから、また次、また次と、どんどん顔を剥いでいった。しまいには友達全員の顔を剥いだっていうから驚きだね。 それで、居場所を失ったその若者は今、ジャパリパークに逃げて隠居しているらしいよ。ふふ、怖いだろう? 私もこの話を始めて聞いたときは眠れなかったよ。おっと、本題前にだいぶ怖がらせちゃったみたいだ。でも、これは良い顔がいただけそうだね。



 ん、なんだい。椅子から手枷が出てきて、身動きが取れないだって? それは、これからする話はとびっきり怖いからね。逃げてしまうかもしれないだろう。手に持ってる物? これはナイフだね。大丈夫、痛くはしないから。安心して。

ふふ、『良い顔いただきました』


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