20話 観光スポット
「もうそろそろ寝るよ。男子はあっちの部屋、女子はこっちの部屋に布団敷いて」
外も大分暗くなってきた頃にようやく俺達は眠る事になったのだが、どうやら俺も女子達と一緒の部屋で寝なければならないらしく、布団を敷くのを手伝わされた。
「マコちゃんと一緒に寝れる〜♪」
「マコちゃんの隣は私が寝るから、アイちゃんはサクラちゃんの隣」
「そんなぁぁあ!」
アイはこの世の終わりのような顔をしていた。
全員横になるとシズキが電気を消した。
ウィッグが外れないように完璧に付けているものの、寝ている間に下半身や胸を触られたら絶対にバレる。
シズキが起きていてくれたら大丈夫だが、もしアイスやサクラなんかが夜中に襲ってきたら……俺は死ぬ。
そんな心配をしながら、壁を向いて眠りについた。
翌朝を何事も無く迎えた俺は、皆が起きる前に着物から私服に着替えて再び2度寝しようと布団の中に入る。
「マコちゃん、朝から早いわね」
「っ! ビックリした……シズキおはよう」
突然話しかけられて驚いてしまった。
「おはよう……んんん〜〜っっっ……」
シズキは大きく欠伸をすると身体をモゾモゾ動かしながらゆっくり起き上がった。その動きはまるでゾンビだ。
前髪で顔が隠れており、貞子のようになったシズキはフラフラと自分のスマホを手を伸ばして探す。
着物がよれよれで胸元がかなり危ないのだが、見られているという自覚はあるのだろうか。
「……スマホここだよ」
「ありがとう」
シズキのスマホを渡してやると、目を擦りながらぼんやり弄り始めた。
「私2度寝するけど、シズキはもう起きるの?」
「……うん。これからの予定も色々あるし……」
朝から大変そうだなぁと思いながら、再び壁の方を向く。
「皆が起きたら全員で観光スポット巡ろうね……」
「分かったよ」
シズキはこの日の為に色々と準備をしてきたんだなと考えると、やっぱり俺はシズキの事が好きでいて良かったと思う。
皆が起きる頃には蝉も鳴き始めて、クーラーを付けると皆暇そうにスマホを弄っていた。
「皆おはよう! 今日は観光スポットに行くわよ!」
朝から元気の良いシズキ。皆はそのテンションに付いていけずぼんやりしている。
「ほら男子達! 昨日の元気はどうしたの?」
「っせぇな……」
シズキが男子達のいる部屋をバッと開けると、男子達は嫌々布団の中から身体を起こした。
「まだ10時だし、眠らせててもいいんじゃない?」
「いやっ! 起きるぜ!」
「俺も朝から最高の気分だ!」
何故か男子は俺に親指を立てて急に元気になった。
「トモキ君は?」
「眠いけど起きるよ……皆おはよう」
「おはよう」
これでやっと全員が目を覚ました。
皆が準備をすると、早速朝食を食べる為と言うシズキと共に外に出た。
どこに食べていくのか聞いてみると、朝からだからコンビニでいいんじゃない、だそうだ。コンビニでおにぎりなんかを買ってから観光スポットを巡ったりするのだろう。
意外と近くにコンビニがあり、そこでそれぞれの朝食と飲み物。俺はシンプルに昆布のおにぎりとお茶だけを買って皆が買い終わるのを待機した。
「近くに観光スポットってあるの?」
シズキに聞いてみる。
「まずは売店のあるダムとか行ってみようかしら」
「ダムって観光スポットなの?」
「結構人がいたりするわよ。売店の横の椅子に座って眺めるダムの水の景色なんて凄く綺麗だし、結構広いから男子達も走り回って遊べるわ」
前に来たことがあるのだろうか。かなり詳しいようで、そのダムについて色々と語り始めた。
皆買い物を終えて集まってくると、シズキは早速ダムに向かおうと言って歩き始めた。
先程話を聞いて興味が出た俺は、スマホでそのダムについて調べることにしてみた。すると確かに観光地としてダムがあるらしく、眺めも良さそうである。
「わぁ〜っ! すっごい大きい!」
「アイちゃん落ちないでね〜」
「おぉ〜」
到着すると、確かにかなり広くて車も何台か止まっている。
売店の横からダムを見下ろすと、息を呑む程の大きさである。アイは木の柵を掴んでピョンピョンと子供のように跳ねてサクラに注意されていた。
「おいあそこ登ってみようぜ!」
男子達は景色よりも手のような謎の形をしたオブジェに登って遊んでいた。
俺も身体を動かしたいけど、シズキがどういうか分からないからな。
「マコ、そこの店でお土産でも買わないか?」
「えっ? あ、私お金持ってきてないけど……」
「俺が奢るよ」
トモキに誘われてしまった。
「う、うぅ〜ん……じゃあちょっとだけ」
普段は舎弟達に色々奢ってもらってたりするのだが、女装している時に親友のトモキに奢ってもらうというのは新鮮で少し気が引けた。
売店の中に入ると、意外と人が何人かいるようだった。
「好きなの選んでて、ちょっとトイレ行ってくる」
「うん、ありがとう」
トモキに財布を渡されてしばらく何を買うか店の中をウロチョロする。
俺に似合いそうなアクセサリーがあれば、ゆるキャラの人形だったり美味しそうなお菓子があったりして、お土産には何が良いかとかなり悩む。
しかしお土産にするなら残る物が良いなと思い、黒い骸のネックレスを手に取った。
「君可愛いね〜」
「お金払うからお兄さん達と遊ぼうよ」
その時、突然背後から肩に触れられて振り返ると、髭を生やしたおじさん2人がニヤニヤして俺を見ていた。
「すみません。友達と来てるので」
店の外を見ると、シズキ達は男子達が遊んでいるのを眺めていてこちらには気づきそうになかった。
「いいじゃ〜ん、友達と遊ぶより楽しい事しようよ〜」
そう言いながら1人のおじさんが尻を揉んできた。
「っ……辞めてもらえます?」
「おっ? 怖いね〜」
「そういう子大好きだよ。行こうか」
おじさん2人に肩を掴まれて、店の奥の方へと押されていく。
「やめろって」
「その威勢はどこまで続くかな〜?」
「チッ……」
キレた俺が2人に手を出そうとした時だった。
「すみません。この娘俺の彼女なんで、おっさん達邪魔しないでください」
トモキが丁度駆けつけて助けに来た。
もう少しトモキが来るのが遅かったら喧嘩になっていた所だった。
「ガキの癖に調子乗ってんじゃねぇよ!」
「大人が子供に手を出すなんて大人げないですね」
おじさん2人が手を出した所で、トモキは即座に懐に潜り込み溝落ちにパンチした。
一瞬で2人の大人を再起不能にしたトモキは、その場から逃げるように俺の手を強く握って店を出た。
危なかったと思いつつシズキ達の方を見ると、シズキは俺の方を物凄い目付きで睨んでいた。
まさか俺が手を出しそうになった所を見ていたのか? まずい……シズキは俺が喧嘩するとブチ切れて何するか分からないから、もしかしたら皆に俺の女装がバレるかもしれない。
「……」
「マコ、大丈夫?」
「……大丈夫……」
「ちょっ、ちょっとそこに座って休もうか」
全く大丈夫じゃなさそうな俺の様子をみたトモキは、俺の背中を撫でながら近くの椅子に座らせてくれた。
「怖かったよね。ごめん、すぐ俺が助けてやれなくて」
「大丈夫だから……」
「ごめんな……」
気付けばトモキは俺を優しく抱きしめてきていた。
「えっ、えっ!? 何してるのっ!?」
「もう大丈夫?」
「だだ、だ、大丈夫!」
「良かった」
やばいやばい、なんで急に抱きしめてきたんだトモキは……顔が熱い。また何か勘違いされてるよ。
俺はしばらくトモキに手を繋がれているという不思議な状況に困惑していた。
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