刹那的バイオレンス

 縁側に転がる私。右腕には鈍い痛み。心臓の鼓動。乱れた呼吸。全て私のものだ。


 彼女はしゃがみこんで私の顔を撫でた。正確には、ひょっとこ面を。そうしてぼそりと呟いた。


「ちゃんと仮面を守ったじゃない」


 冗談じゃない。


「反射的な防衛だ。ひょっとこを守ったわけじゃない」


「なら、今度は守らないで」と言って腕を引く。拳が握られる。頬が強張こわばる。


 私がなにか言う前に拳は振り下ろされた。咄嗟とっさに身をよじった私は、勢い余って地面に落ちる。拳が床を打つ固い音が月夜に響いた。躊躇ためらいのある響き方ではない。どうも彼女は本気で私のひょっとこを叩き壊そうとしているようだ。


 立ち上がりつつ、私は叫ぶ。足の裏に小石が刺さったのか鋭く痛んだが、それどころではない。


「やめたまえ! 狂っているのか、君は!」


 彼女は肩で息をしている。肉体が華奢きゃしゃであることには変わりないのだ。


「もっと自分を大事にしたまえよ。どうかしている」


 彼女はぐったりと座り込んだ。しかし、その目は私を見据えていた。随分と虚ろな眼差しである。力を使い果たしたのか、おこないのくだらなさに思い至ったのかは分からない。ともかく、もはや彼女から暴力の気配はしなかった。


 しばらくの間、僕と彼女は向かい合っていた。目を離してはならないような危うさがあったのだ。


 長い沈黙ののち、彼女は深く長い溜息をついて目をつむった。それを合図にするように、私は彼女の隣に戻ったのだ。


 そして壬生は、ぽつりぽつりと語り始めたのだった。


 その時の彼女の心情がいかなるものであったか、それを語る資格を私は持たない。ただ私の事実のみをキミに伝えよう。

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