第8話 走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!

「みーつっけた!」


 しばらく尾行した後、軽トラックがコンビニの駐車場に入り敷地の隅に停車したので、こちらは反対側の隅に車両を止めてから降りた。

 勇んで向かう十和田を、同期の櫻木が止めに入る。


「おい!? 十和田! 警察の立ち会いでないとマズいだろ?」


「電波は会議室で出てるんじゃない、現場で出てるんだ!」


「恥ずかしいから大声で言うなよ?」


 彼の忠告を無視して十和田は先を行く為、二人は慌てて後を追う。


 三人の電波監視官は、軽トラックのドアを半開きにし、降りようとする運転手に近付いた。

 第一声は十和田が放つ。


「すみません、関東総合通信局です。トラックに積んでいる無線器について、お聞きしたいのですが?」


 トラックを降りようとする、か細い色白の中年運転手は、すぐに事情が飲めず返事は返すものの、時を止めた。


 ラジオから聞こえるノイズ交じりの演歌が、自然と目線を運転席に向けさせ中を覗くと、狭い室内の助手席に大きな無線機器が見える。


 なるほど―――申告者の“年寄の声”とは、ノイズ交じりで聞こえて来る演歌が、かすれた老婆の声に似ているからか―――。


CQ CQ CQ……


 昼下がり。

 帰庁した十和田は課長のデスク前に立たされ質疑を受けていた。


 老眼鏡に七三分けの頭は、万遍無く白髪に覆われ、管理職としての苦労がうかがえる。

 小日向こひなた課長は五十九歳を迎え、体力も内臓も衰えストレスに左右されやすく、できれば仕事での問題を避けながら定年を迎えたいところだが、目の前の男にその心中は伝わらないようだ。


「十和田。違法無線局の利用者を見つけるのはいいが、必ず警察立ち会いでないと駄目だ」


「いや、解ってますけど、見つけた時に捕まえないと、次いつ捕まえられるか」


「今回は早朝の、警察と合同で行った取り締まりで、たまたま近くにいたから摘発できたが。我々は違法無線局の調査発見が仕事で、逮捕は警察の仕事なんだから」


「じゃぁ、違法無線局を見つけても、警察が行かなかったらみすみす見逃せってことですか?」


「車ならナンバーを控えて警察に番号を照会してもらえればいいし、室内で利用する違法無線なら、場所を控え改めて局の許可を取り、警察立ち会いの元で摘発すればいい。我々には捜査権も逮捕権も無いんだ」


「じゃぁ、もし仮に、違法無線を使っているのが……」


 十和田は声をすぼめ躊躇ためらいがちに言う。

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