第2話 違法無線は許さない!

 早朝の通勤ラッシュは環状線を車両で埋め尽くしていた。

 車のエンジン音は傷んだ胃腸に響き、排気ガスの機械的な香は相も変わらず慣れない。


「来た、来た!」


 大通りの隅で環状線を走る車の列を目で追う集団がいた。

 皆、年齢も働き盛りで赤のベストを着込み、背中には“総務省 関東総合通信局”と記載されている。

 総務省の職員は遠くから来る一台の大型トラックを注意深く見ていた。およそ距離は百メートル先、ここから見るとおもちゃのトラックが近づいているようだ。


 九〇メートル、八〇メートル、七〇メートル、六〇メートル……。


 距離が近づくにつれ大型トラックの全容が細部まで見えると、長い勤続年数で培われた知識と経験が細い針のようなアンテナの可否を瞬時に見極める。


「CB!」確認した職員は他の職員にも目視させ見間違いではない事を確認。側で待機する制服警官にトラックを止めるよう依頼する。


 五〇メートル手前で警察のライト棒によりトラックは道路の隅に寄り停車するよう誘導される。


 停車し、開けた窓から顔を覗かせたのは頭が薄い小太りの運転手。

 警察に止められたことにより、いささか警戒して波風立てぬように質問する。


「何か……違反ですかね?」


 警官は運転手の警戒を解き相手に協力してもらえるよう極力丁寧な口調で諭す。

 運転手は合意しトラックから降りると警官と入れ替わりで職員達がトラックを調べる。

 一人が開いたドアの足元に乗り高いトラックの屋根を見る。

 釣竿のように長く延ばされたアンテナを、アンテナから延びる配線を追い運転席の中を覗く。

 配線はフロントガラスの隅を伝い足元へ流され、助手席の下にある大きな機材につなげられていた。

 職員は機材の仕組みを把握すると背後で待機する仲間に伝達する。


「CB無線、確認」


 すると別の職員が警官の側で待ち呆ける運転手に近付き、気さくさを装い質問する。


「いくつか質問よろしいですか?」


 運転手は身が構えながらも頷く。

 相手の了承を得た職員は質疑応答を開始する。


「いつから使ってます?」


「さぁー……先月ぐらいかなぁ?」


「開局の許可は申請していますか?」


「してると思うけどねぇ……」


「機材は何処で購入されました?」


「トラック仲間から貰ったヤツだから、よく解らないなぁ……」


 それを聞いた職員は運転手に了承を得て屋根に取り付けられたアンテナを外し別の職員に手渡す。

 渡された職員はアンテナを縦長の測定器に取り付けスイッチを入れる。

 すると、測定器のスコープはあっと言う間に数値を上げた。

 彼は結果を報告する。


「――――アンテナは送信できる状態です」


 結果聞いた職員は腕時計に目をやり環状線を走る車の騒音にかき消されないように声を張る。


「午前八時。無許可の違法無線、摘発」


 それから後の流れは警官を交え、トラックの側にブルーシートを広げ無線機器や配線、アンテナを露店のように並べ即席で書いたネームプレートをそれぞれの機材の前に置き写真撮影を行った。

 摘発の証拠写真を撮り終えると職員が持参した書類に運転手のサインを記入してもらい無線の使用禁止を“周知”させた。

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