第88話 願い
「話を聞く限り、栗山メイが去年の冬に魔法使いになったのは間違いないな。アルバイトを辞めた時期だろう。人形が初めて目撃された時期とも合致する」
駅前のベンチに座り、マッスー主任が難しい顔をする。
「やっぱり、彼女が犯人で間違いないんですよね」
「そうだな。あれだけ被害者の証言があれば間違いないだろう。君は知り合いだったんだよな。あまり個人的な事を訊くつもりはないが」
「私が知ってる彼女は、人に迷惑をかけるような子じゃありませんでした」
「そうだろう。魔法使いになる前だからな。人は、何かのキッカケで予想もつかない行動をとってしまうものだろう。彼女の場合は、魔法使いになった事であった訳で」
「魔法使いになるって、そういうものなんですかね」
マッスー主任が私を見つめる。
「君は、何でも願いが叶うと言われたら、何をお願いする?」
本当の両親に会って、私を捨てた理由を聞く。
頭をよぎるが、口には出さない。
小さい時にずっと心に秘めていた願いだ。流れ星を見れば、実際にお願いもした。大人になるにつれ、そう願うのは辞めた。
過去の辞めたはずの願いが、頭をよぎる。
「大金持ちになることですかね」
アハハと笑いながら答える。
マッスー主任に心の奥底を見透かされている気がした。
「現金な願いだな。俺の願いは世界平和だ」
正解はない問いだが、万人が答える正しい使い方を言われ、少し居心地が悪くなる。
「だが、誰にでも叶えたい願いはあり、彼女はそれを叶える力を得てしまった。買ってもいない宝くじの1等に当たったようなものだ。おかしくもなるだろう」
私はヒナミさんの言葉を思い出す。
ある日ふと気付くのよ。現実は単純で、私の意のままに操れる事に。
万能の力を、私の知る引っ込み思案のメイちゃんは得てしまったのだ。
「働く上で先輩として助言しておくが、魔法使いには気をつけろよ。もちろん善良な魔法使いもいるが、悪意ある魔法使いもいる。常識も法律も物理も全てのタガが外れて、欲望のままに動く魔法使いは、、、」
マッスー主任が大きく椅子に腰掛け困り顔をする。
「我々にとって、災害でしかない」
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