第87話 洋菓子屋

洋菓子屋は駅前にあるこじんまりとした店だったが、ショーケースには多くのケーキが並び、購入したケーキやコーヒーを食べることができる小さな机が店内に3つ並んでいた。


店内には1つの机に、スーツ姿の男性がコーヒーを飲み、新聞を読んでいるだけで、カウンターを兼ねたショーケースに立つ若い女性店員は暇そうにしている。


「こんにちは、少しお時間よろしいですか?」


「なんでもどうぞー」


最初はお客さんが現れ、店員は姿勢を直したものの、購入意欲の無い客だと判断するやいなや、すぐに楽な姿勢に戻した。


「この女性をご存知ですか?」

カウンターに写真を置く。


「ああ、知ってますよ。栗山さん、去年一緒に働いてました。といっても1か月くらいで辞めちゃったので、あまり知らないですけどね」


「1か月ですか?」


店員は少し面倒くさそうな顔をして答える。


「なんか色々なバイトを転々としてたみたいですよ。いるじゃないですか、何事も続けられない人」


「そうですか」

私はメモ帳に店員の言葉を書き写す。


「何か変わったことはありましたか?」


「変わったことねえ」

店員は空を眺め、思い出す素振りをする。


「彼女はコミュニケーションがヘタな人でしたから。何聞いても私生活のことは話さない感じの。何かに常に怯えている感じでしたよ」


店員がポンと、手を打つ。

「そうそう、彼女が辞めた時って言っても、音沙汰無しで来なくなっちゃったんですけどね、その来なくなる前の日が同じシフトだったんですけど、ちょっと不気味でした」


「不気味というと」


「狂気っていうんですかね。普段おとなしい子だったんですけど、なんか終始、気持ち悪い笑顔でね。ドラマとかで猟奇的殺人犯がするような気味悪いの」


思い出すのも嫌そうに、カウンターの写真を持つと店員は一瞥した。


「正直、辞めてくれて良かったなと思ったくらいですよ」


そう言うと、私に写真を押し返した。

情報はそれ以上得られなそうだ。お礼を言い、立ち去ろうとすると、店員が声をかけてきた。


「あの、何かあったんですか? その子の事、前にも聞かれたんですけど」


私達より先に尋ねた人がいる?

この人形騒動の犯人を追っている人物が別にいる、ということだろうか。


「それはどんな人でしたか!?」


「えーっとですね」

店員は口元に手を当て、考える。



「あれ、全然思い出せない。なんでだろう?」





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