第80話 犯人

「栗山 メイ。彼女が魔法使いであり、この人形騒動を引き起こしている犯人で、ほぼ間違いがないだろう」


課長がホワイトボードに新しく貼られた顔写真を指し、職員達に呼びかける。


写真は学校の卒業アルバムから持ってきたのであろう、制服を着た少女がこちらを向いて、少し照れた顔ではにかんでいる。


私の知っている顔だ。

記憶に残る引っ込み思案だったメイちゃんで間違いない。

高校の卒業アルバムだと思うが、幼さの残るその顔は、とても他人に危害を与える者には見えない。


「他の写真も探しているんだけど、凄いね!」

アンさんがキーボードを叩きながら、驚愕の声をあげる。


「この子、全然痕跡がない! 今どきの子はネット中毒じゃなきゃダメでしょ!」


インターネット上で写真や記録を探しているが、見つからないようだった。


理由は知っている。

私の記憶では、彼女は携帯電話を持つことはなかった。



大賀補佐がホワイトボードの前に立つ。

「念の為、他の人達にも写真を見てもらいましたが、ほとんどの方が彼女に心当たりがありました」


手帳のページをめくる。

「被害者の方たちは、彼女が通っていた学校の先生および同級生、アルバイト先の店員など少なからず関係があった者が多く、関係がない方は何らかのかたちで巻き込まれたものと思われます」



「復讐行為ということか、おっかねーな」

マッスー主任が頭を書きながら呟く。



「すみません」

ノートに大賀補佐の言葉を書き写していた先輩が、顔をあげる。

「魔法少女クラブとは、どんな関係だったのでしょうか?」


「そりゃあ、あれだろ」

マッスー主任が先輩の方を向き、答える。

「おおかた、縄張り内で魔法を乱用してる犯人に怒って、ヤキ入れようとしたら、返り討ちにあったってとこだろ」


大賀補佐が軽く咳をする。

「彼女達に協力は望めませんが、恐らく主任の見込み通りでしょう」


「それで、どうします? 相手は人間を一瞬で人形に変えてしまう奴ですよ」


「そうだな、まずは人形の魔法を解く方法を探すのが優先だ」


課長はそう言いながら、壁に備え付けられている頑丈な戸棚の鍵を開け、ごそごそと中から鉄製の箱を取り出すと、両手に抱え、みんなの前に持って来た。


「しかし、いずれ犯人と対峙する事になるだろう。命の危険を感じたら、迷わず使え」



課長が箱を開けると、光りを放つ朱色の液体がインク瓶に入っていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る