第79話 過去
私には両親がいない。
実際にはいるのかも知れないけど、生きているのか、死んでいるのか、何をしている人なのか、どんな人なのか、何も知らない。
知らないなら、いないのと同じだ。
だから、私は両親がいない事に決めた。
両親がいない子供は施設で、育てられる。
同じ環境の子供たちで寄り添って、大人になるまで一緒に過ごす。
そこで会ったのが、栗山 メイだ。
おママゴトが大好きで、引っ込み思案で泣き虫で、ニンジンが嫌いで、笑顔が可愛くて、いつも人形を大切に抱えていた。
歳が近いこともあり、よく一緒におママゴトをして遊んだ。
今では疎遠になってしまった。
私は施設を出て、家賃と生活費を稼ぐためのアルバイトで忙しくなり、学校で出される課題に追われているのを自分への言い訳にして、連絡を取らずにいたが、本心は違う。
過去の自分を切り離したかったのだ。
両親がいない。他の人がいう普通の幼少期ではない。
そういったものを全て切り捨てて、ひとりの大人として見てもらいたかった。
一緒に遊び、一緒に生活をして育ちながら、一方的に距離をおいてしまった女の子の名前を聞き、私は自分の心が罪深い影に覆われている事に気付く。
過去と一緒にメイちゃんのことも忘れてしまっていた。
大賀補佐に導かれ、女子更衣室の椅子に座り、メイちゃんについて知っている事を全て話した。
話している間、心の奥にしまっていた記憶と感情が溢れ出て、涙が止まらなかった。
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