第41話 お店

「ここだ」

禍々しい髑髏の絵柄が描かれた看板を掲げたお店の横に、その店はあった。


『イノシシノーズ  〜全てが揃う店〜』


と書かれた看板は傾いている。店からは鍋やらヤカンやらの生活用品が廊下にまで溢れ出ている。



隣の店もインパクトがあるが、この店もなかなかのものだった。


この世の全てを揃えるべく、お店のキャパシティを超えた在庫管理となっている。



「先輩、一つ訊いてもいいですか?」


「どうした?」


「デパ地下を歩いていて、誰とも会わなかったんですが、魔法使いって少ないんですか?」


「そりゃ、大体の人は日中働いてるだろ」

すごく真っ当で現実的な答えが返ってきた。


「普通に働くんですか」


「そりゃ、働いて賃金貰わないと生活できないだろ」


「そこは魔法でちゃちゃっとお金を増やしたり、できないんですか」


「それは、犯罪だろ」


何を言ってんだか、とでも言うように先輩は答えると、店の暖簾を手でかき揚げ、店の奥に声を投げかけた。



「イノさーん、電話でお願いしていた魔術防災対策課です」


奥の方から、物の勢いよく崩れ落ちる音と同時に野太い声がした。


先輩に続いてお店の中に入ると、外観で見るよりお店の中は広かった。


と、いうよりも「広がった」という言葉の方が正しいだろう。明らかに、外で見たお店の幅よりも、暖簾をくぐった先の幅の方が大きい。



内装にガラスを容易ることで、実際よりも広く見せる内装があるが、これは視覚的なものではない、物理的に矛盾したスケール感が存在している。


しかし、店の中は広がったものの、物が溢れていて、歩く隙間ほどしかない事には変わりなかった。


その奥で店主がいそいそと、崩れ落ちた品々を拾い上げては、山の上の方に放り投げることで、僅かな道筋を確保していた。



「いらっしゃっい」



私が初めて会う魔法使いは、想像していた魔法使いよりも、だいぶドワーフよりだった。



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