第35話 主任
昼休憩が終わり、部屋に戻ると初めて会う人が座っていた。
第一印象は業務用冷蔵庫だ。身長が高く、筋骨隆々で人を軽々と持ち上げれそうな体格をしている。
いや、初めてではない。
就活の時、面接へ向かう道中で会っている。会っているというより、一方的にこちらが見たのだが、熱中症の男性を肩に担ぎ、悠々と歩いていた人物だ。
男はこちらに気づくと、笑顔で手を振った。
「君が噂の新生ビッグバンか」
もう、あだ名が定着しつつある。
広告班の情報伝達速度の恐ろしさを感じた。
「俺はマッスーだ。よろしく」
この人が正義感の塊という主任。確かに、屈強な体格からも、力強い印象を持つアゴからも某スーパーヒーローの風格が漂う。
「井田戸 小夜です。よろしくお願いします」
「ところでビッグバン」
私の自己紹介はなんだったのだろうか。
マッスー主任が私の机に置かれた木箱を指差す。ミナ姉から渡されて、机の上に置いたままにしていた謎の木箱だ。
「これは君の本人確認箱かい?」
「私のですけど、これは本人確認箱と言うものなんですか」
「そうそう、懐かしいな。俺も新入社員の時にもらったよ。自分の思い入れがあるけど、長期間預けても構わない品を入れて提出するんだよ」
「なんで、そんな事をするんですか?」
「それは本人かわからない時に、確認するためさ」
さも当たり前の様にマッスー主任は言うが、いまいち意味がわからない。
「思い入れがあるけど長期間預けても構わない品、、、」
「そうそう、退職する時か、懲戒免職の時までか、開ける必要がある時まで返って来ないからね」
手のひらサイズの木箱に入る思い入れがあるもの、といきなり言われると、なかなか難しい。
鞄の中から、家の鍵を取り出す。
鍵にはレッサーパンダの小さな人形が付いている。私が小さい時に連れて行ってもらった、動物公園で買ってもらったものだ。
愛くるしい顔に似合わず、威風堂々と直立仁王立ちしている姿が非常に好きだ。
「こんな感じのですかね」
マッスー主任はレッサーパンダの人形を見て、グッと親指を立てた。
なるほど。
これなら丁度、箱にも入る大きさだ。
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