第20話 入庁式

「今年の新入社員、ヤバすぎ」

河童はそれだけ呟くと、私の下で伸びた。



右手がネバネバしてる。



河童にまたがった状態で、上半身を起こし、呆然と粘液の付いた右手を見つめていると、眩いフラッシュが焚かれた。


「いやー、いい絵が撮れたよ」

レトロなカメラを持った男性が私の肩をバンバンと叩くと、立ち上がらせてくれた。


周りでは「今年の妖環は大したことないなー」とヤジがとび、ナマハゲの被り物を持った糸目の男性が反論している。


「いや、ちゃんと見てました!? 今年の新入社員はヤバすぎっスよ、ウチの補佐を殴っちゃってんスよ」


「お前の時は足ガクガクさせてたのによー」


「いやいや、霊福さんの脅かし方はヤバいですって、チビらないかっただけ俺は大人ッス」



補佐?


河童は大柄な男性に抱えられ、付き添いの人が2リットル容器に入ったアルプスの水を滝のように頭にかけていた。



視界がピンク色のハンカチが入った。


「これを使って」


見上げると、グレイ型宇宙人の頭を小脇に抱えた長身の金髪碧眼美女がハンカチを差し出していた。



「私、ネバネバしてますけど」


「いいから、いいから」



ハンカチを受け取り、右手の粘液を拭き取る。

「あの、あなたは、、、」


「わたし?私はチュパキャブラ」


再度、被り物を被り「チューチュー」と鳴き声なのか、血を吸う音なのか、謎の音を出す。



「デカイですね」



被り物を脱ぎ、怒った口調で諭された。

「身体的特徴を指摘するのは差別ですよ」


「失礼しました」

慌てて謝ると、彼女は笑った。


「冗談。でも、この仕事をやる上では、覚えてた方が良いかもね」



この仕事、、、

周囲を見渡すと、部屋内にはたくさんの人が入り乱れ、共闘した2人はその渦になすすべも無く取り込まれている。


そして、皆、手にはグラスを持っている。



「拭き終わったわね」



ピンク色のハンカチを回収されると、代わりにグラスを手渡された。



「あなた魔対の新入社員よね」



手に持ったグラスになみなみと液体が注がれる。



「毎年持ち回りで新入社員を怖がらせるのが、入庁式の恒例なのよ」


表面張力の限界まで注ぐと、彼女は満面の笑みで言った。



「ウチの課が恥かかされた分、飲んで償ってもらうから」




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