第18話 カッパ

「カッパ?」


河童はウンウンと頷く。


目の前の河童は某寿司店のようなマスコット的な愛くるしさはなく、生々しい。


妖怪図鑑で見る風貌と同じく、嘴は尖り、肌は両生類的なぬめりを帯びており、眼は血走っていた。



「マジカッパ?」



大森さんが一歩前に近寄りながら、妙にゴロの良い質問を投げる。



さらに河童はウンウンと頷く。



「へー、初めて見た」

今井君が驚きながらも右手を差し出す。



「ナイス トゥ ミー トゥユー」



何故、英語なら通じると思ったのだ、彼は。


差し出された右手を水掻き付きの手で弾くと、河童は嘴から涎をダラダラと流しながら、けたたましく叫び出した。


「英語は万国共通じゃないのかー」


痛そうに右手をさすりながら、今井君が呟くのが聞こえた。



それと同時に、河童の叫び声に混じって後方からヤジ混じりの怒号がする。



「ダメだダメだー! 力技で行けー!」



むんずと、河童にエレベータから引っ張り出されると、正確に言うと放り出されると、哀れな感じに床に突っ伏した。


横を大森さんがコロコロと転がっていく。


薄暗い部屋では、いきなりガンガンと耳障りな音が鳴り響き、スモークがものすごい勢いで吹き出しているため、内部がどうなっているのかわからない。



わかるのは、たくさんの人か、人ならざる者に囲まれている。



履き慣れないヒールを履いていることもあり、産まれたての子鹿のように立ち上がり、ファイティングポーズで身構える。




近づく者には、後悔を教えてやろう。




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