第6話 おかわり
これは、、、ほうじ茶だ!
香ばしい匂いと一緒に冷たい液体が口の中から胃までの道行を潤していく。
ついつい、はしたない真似をと思いつつも、湯呑みが空になるまで一気に飲み干してしまった。
衝動に駆られてしまったのだ。
と、ロックな言い訳を心の中でするが、正気に戻り正面を見据えると、向かいの男は右手の指で「3」を何故か作っていたが、その指を自身の額へ持って行き、やれやれといった形で頭の自重を支えた。
「失礼しました」
恥ずかしさで入口の壊れそうな扉をぶち破って帰りたくなった。
入口が無理なら、女性が立っている窓でもいい。突き破って帰りたくなった。
お茶一杯で面接を不意にしてしまったのだ。小刻みに震える手で、湯呑みを机に戻す。置く時に、手の振動で数回カチャカチャとやけに響く音がなった。
向かいの男は何も言わない。
ただ、私の顔を眺めている。
無礼な態度をした私の顔を記憶しようとしているのだろうか。きっと仕事終わりに同僚達と飲みに行った際に、私の事を面白おかしく話すのだろう。
細かいディテールを詳細に覚えていなくてはならない。その為に見ているのだろう。
あまりにも見つめられるので、自然と顔に血が上ってくるのを感じる。ただでさえ暑いのに、つむじから噴火してしまいそうだ。
そんなに見ても、私には何も特徴がないのに、、、。
いたって平凡な、何処にでもいるような顔だ。だからこそ、凝視しないと覚えられないのかもしれないが。
向かいの男はおもむろに首をかしげる。
私もつられて、首をかしげる。
男は椅子に座ったまま上半身を捻り、窓際の女性の方を向く。
女性も不思議な顔をして首をかしげる。
なんなのだろうか。この時間は。
そう思いながらも、何かを言われるのを待つ。
男は急須の蓋を引っ張り、中身を覗き込み、うんうんと1人で頷いている。
それから、急須を持った手を伸ばすと、訊いてきた。
「もう一杯飲むか?」
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