深海旅行
志來夢
第1話 出会い
「おい、また失敗したのか。懲りねぇな、何回言えば気が済むんだ。ほんと使えねぇな、お前。」
少し間違えただけで当然の様に降りかかる、上司からの罵倒。
「すみませんでした。」
謝ることしか出来ない僕。
「え、またあの子仕事でミスしたの?嫌ねぇ、仕事に向いていないんじゃない?」
周りから向けられる冷たい言葉。
好奇の目。
同情の眼差し。
毎日これの繰り返し。
何の変哲も無い、一般的な社会人の僕。
家に帰りベッドに横になると毎晩のように感じる虚しさ。
「あー…、ほんと、なんで僕は生きているんだ。」
そう呟いたところで変わらない現実。
不条理に繰り返される毎日に終りはない。
永遠に。
じゃあもう、生きるのをやめよう。
海に行こう。
すべて終わらせに。
悲しみのの溢れるこの世界から逃げ出すために。
明かりもない夜の海。
月の光に照らされ、輝く砂浜。
心地いい風の音。
静かに僕の足を誘う海の水。
そこに、ポツリと佇む少女。
・・・ん?少女?
こんな時間にこんなところで何をしているんだ?
本来ならこの考えが正しいだろう。
しかし、このときの僕は、思わず海に向かって佇み静かに涙を流している少女に見とれてしまった。
「君、きれいだね。なんでこんなところで一人でないているんだい?」
何を言っているのか自分でも分らない。
ただ、その少女は僕にとって何かをくれる。
そんな予感がした。
「お兄さんを待っていたの。」
少女は、笑わずそのまま振り向きもせず、ただただ海だけを眺めたまま呟いた。
これが、僕と少女の不思議な出会い。
そして、悲しくて儚い物語の始まり。
深海旅行 志來夢 @kokomi
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