2-4

 一志の車は古い型のワゴン車だった。助手席に倒れ込むようにして座る。シートを倒してくれたとき、彼の髪が鼻先を掠めた。

 ふと、疑問が頭をよぎる。念のため訊いてみた。

 「……一志くんて、免許持ってるの?」

 「来年取る予定。三月に十八だから」

 当然、現状では持っていないということだ。彼は免許を取得できる年齢に達していないのだから。

 「いま、十七歳なのよね……」

 軽く頷くと、一志は車を発進させた。

 胸ポケットから煙草を取り出し、一本口にくわえる。

 宣子は一瞬、腹痛も忘れてまばたきを繰り返した。彼女の視線に気づくと、一志はごめんと言って煙草を箱に仕舞った。

 「具合悪いときに、煙、良くないよな」

 「あ、別に、いいんだけど……」

 そういうことではなく。

 「いつから吸ってるの?」

 「半年前くらい」

 このひと、だいぶ規定外だ。

 集中できない意識の中でかすかにそう思う。痛みがぶり返してきた。

 車が大きく傾いた。身体も揺れて気持ちが悪くなる。宣子は瞳をきつく閉じた。

 「……わたしも免許取ろうかな」

 ここで暮らすには、車がないとあまりにも不便だ。

 「そのほうがいいんじゃない」

 一志は無関心な口調で言った。

 自分のことは自分でやれ、と言われているようで、心が弱る。

 「帰るところだったのに、ごめんなさい……」

 「べつに」

 沈黙が気まずい。しかしこれ以上喋ると涙が出てきそうだったので、彼女は口を閉ざした。

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