迷い者案内所
立花 零
一話 迷子
おかしい。
走っても走ってもゴールが見えない。
まずゴールなんてものが存在するのかもわからない。
でも何か終わりがあるはずで。
そう思い込んで走り続けて、もう体はクタクタで今にも立ち止まってしまいそうだった。
どうして自分がここにいるのか。なぜここに来たのか。
こんな場所知らない。
ならどうやって来たのか。
何もわからない・・・
私は誰?
「おい、おい!」
「え?」
自分でも気づかないうちに随分遠いところへ来てしまったようだった。
終わりにこれたかはわからない。
でも、さっきよりは気が楽になったように感じる。
「頭でも打ったのか?見たかんじ怪我はなさそうだけどな」
心配そうな目で私の顔を覗き込むその人を、私は知らない。
相手も知らないはずだ。
だから余計に心配しているんだと思う。
「ご迷惑おかけしました・・・」
「気持ちがこもってない」
「申し訳ございませんでした」
「謝れなんて言ってねーしな」
どうやらそれほど遠くに来たってわけでもないようだ。
言語が違うわけでもないし、訛りが強いわけでもない。ただ会話は噛み合っていないようだけど。
相手は口調からしても、見た目からしても、男の人らしい。
名前を聞くのはやめておこう。どうせ長い付き合いではないだろうから。
「あの、ここってどこですか」
一番気になっていて一刻も知りたいことを尋ねると、相手の人は片眉を上げて、訝しげな表情をした。
今何か変なことを言ってしまったのだろうか。
そんなことはないはずだ。どこにでもあるような普通の質問だったし、相手の人がここの人じゃなかったらちょっと答えてもらえるか不安だけど、それにしてもそんな反応をされる意味がわからない。
どうにか相手の心情を察してみようと試行錯誤していると、そんな私に不信感を抱いたのか、相手が口を開いた。
「お前ここのやつじゃなかったのか」
「ここのやつ」
疑問に思った言葉をそのまま繰り返すと、相手は何かを察したように「はぁ」と息を吐いた。いや、ため息をつかれた。
「そりゃあ挙動不審でもおかしくないな。やっとわかった。おい、ついてこい」
一人で納得して、ついてこいと言われても。
そう思ったけど、ここでついていかなかったら、知らない場所に一人取り残されることになる。それだけはどうしても避けたい。
「はい・・・」
小さく返事をして人を待とうとしないらしい相手の歩幅になんとか合わせるようにしてついていく。
今から行く場所にさっきの質問の答えがあるのだろうか。
ここで教えてくれればいいのに。親切なのか親切じゃないのかよくわからない人だ。
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