闇魔道士と緋色の魔物

神江 京

プロローグ

 むかしむかし 世界が いまのかたちにできあがって まだまもないころの おはなしです。

 世界をつくりおえた神様たちは べつの世界をつくるために べつのところへ いくことにしました。

 そらをとぶ とりたちや みずにすむ さかなたちは きちんと神様たちに「さようなら」をしたのですが りくにすむ けものたちは ないて さびしがりました。

 さびしがるけものたちを かわいそうにおもった神様たちは けものたちに おくりものをすることにしました。

「おまえたちのなかから 十二のなかまを『ワー』という いきものにしてやろう」

 けものたちは かおをみあわせました。そして こえをそろえて たずねました。

「『ワー』というのは どういういきものなのですか」

「わたしたちのように 二本の足であるき 二本の手をつかい 言葉をはなし 火を使うことができる いきもののことだよ」

 神様のこたえに けものたちは また かおをみあわせました。

「ことばや ひを 使う……」

「そうだよ」神様はわらいました。「さぁ ワーになりたいのは だれとだれかな」

 けものたちは みんなであつまって そうだんしました。

「ぼくたちは いまのまま くらしていければ それでいい」そういったのは 牛たちや馬たちでした。「どのなかまがワーになっても 神様たちがしてくれたように ごはんをくれたり あそんでくれたり つよいけものたちから まもってくれたりするのなら それでいいんだ」

「ぼくたちも」犬たちや猫たちも いいました。「ぼくたちは ずっと神様たちに かわいがられて くらしてきた。いまさら かわいがるほうにまわるなんて まっぴらだよ」

 やがて そうだんがまとまり、神様のところに十二のなかまが つぎつぎと やってきました。

 たぬき きつね くま とら おおかみ しか むささび かわうそ いのしし うさぎ もぐら そして さる。

 神様は 十二のなかまにむかって いいました。

「おまえたちを『ワー』として いきていけるようにしてあげよう。だが ワーのすがたをとらず けもののすがたのままで いきていってもかまわない。ただし ワーになることをのぞまなかった なかまたち──牛たちや馬たち 犬たちや猫たち そのほかの けものたちの めんどうだけは ちゃんとみてやっておくれ」

「わかりました 神様」

 十二のなかまは くちぐちにこたえて うなずきました。

 それから ながい ながい ときがすぎました。

 十二のなかまのうち さるたちは すっかり『ワー』としてのくらしに なじんでいました。もう世界のどこをさがしても『さる』というけものは みつかりません。さるたちは じぶんたちのことを『人間』と よびはじめました。

 ほかのなかまは あるものは『ワー』として あるものは『けもの』として じぶんのすきなすがたで いきています。

 ワーのすがたで であった ちがうけものどうしが ワーとしての『家族』をつくってくらしていく ということも みられるようになりました。であった二人のあいだに うまれたこどもは おとうさんかおかあさん どちらかの『けもの』のすがたを うけついでいました。『ワー』としていきるか 『けもの』としていきるかは そのこどもが えらぶことができるのです。

 そうして 世界じゅうに ワーたちや けものたちが ふえてゆきました。ながい ながい あいだ 世界は へいわにみちていたのです。

 けれど やがて この世界にも わるいことをかんがえるものたちが あらわれはじめました。そのものたちのすがたは 神様がつくりだされた ワーや けもののすがたとは まったく ちがっていました。そのすがたは みるものに『不快感』をあたえ 『恐怖』をかんじさせたのです。

 そのものたちが どこからやってきて なにをするつもりなのか へいわな世界にすんでいるワーたちや けものたちには まったく わかりませんでした。神様ならば なにかをごぞんじだったかもしれませんが 神様がいなくなって ながい ながい ときがすぎた世界には 神様とおはなしすることができるワーはいませんでしたし 神様のすがたをみることができるけものもいませんでした。

 それでも ワーたちや けものたちは そのものたちが この『世界』とは ちがうばしょ──『異界』から やってきたらしい ということだけは 知ることができました。そのものたちは『異界』から『世界』へと やってきては ワーたちや けものたちをおそい よくぼうのままに『世界』をあらして さってゆくのです。

 ワーたちや けものたちは そのものたちをおそれ じぶんたちとはちがう『もの』として『悪魔』や『魔物』といった なまえでよぶようになりました。

 もっとも なかには そのものたちをおそれず そのものたちのちからを『魔力』とよんで りようしようとかんがえる『人間』もいました。そして『魔力』をみにつけ じぶんのちからをつよくすることができた『人間』は『魔道士』と よばれました。

 その『魔道士』たちのうちでも ほかのものをきずつけたり くるしめたりすることに『魔力』をつかうものたちは『闇魔道士』と ほかのものをいやしたり らくにしたりすることに『魔力』をつかうものたちは『光魔道士』と よばれるようになりました。

 ふしぎなことに『魔力』をつかうことができるのは『人間』だけでした。二つのすがたをもつワーたちや 足と手を使いわけることができないけものたちは 『魔力』をつかうことが できなかったのです。

 でも、そのことを「ざんねんだ」とおもうワーや けものは 一人も 一ぴきもいなかったのでした。

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