第30話

その男子生徒が入ってくると、ユアさんは

「あ、来たか。

どうぞ入って」

と、うながした。

男子生徒は怪訝けげんそうな顔をしている。

それはそうだろう。

目の前にいる執事姿の男装の麗人に呼び出されたのだから。

ここは教室だけど、今はユアさんと男子生徒と、ボクの三人しかいない。

正確には、この教室のどこかに、マインちゃんがいるはずだが、ボクにはわからない。

ともあれ、ユアさんはその男子生徒に、こう切り出した。

「最近流行ってる、君発進だよね」

「え、なにをいって……」

「非常に不本意なんだけど、この娘の兄貴から聞いたんだよ。

まあ、君もご存知な通り、彼はこの学園のあらゆる、文字通りあらゆることを知っているからね」

と、ユアさんはウンザリといった顔で言う。

(確かに、妹の自分からみても、あの兄と話すのもメンドウだろうなと、思うなあ)

ボクは、そう考える。

「まあ、そういう迷信をどうこう言う気はないさ。

信じるものは救われるというからね。

ただし、二人も行方いなく不明なってるということになってると、話は別だ」

ユアさんは、ウンザリした顔をして話を続ける。

(あ、これはユアさん怒ってるな)

と、ボクは思う。

男子生徒は、ガックリときた感じで、膝から崩れ落ちた。

「……、あの呪文おまじないを教えたら、女の子がよってきたんだよ。

今まで、そういう機会もなかった俺にさ」

「確かに、『恋愛成就』云々と言えば、話を聞くだろうし、試したくなるだろう。

実際は、古の支配者を呼び込むことになるとも知らずにね」

ユアさんは、ウンザリした表情のまま話を続ける。

「彼女たちは、深きものどもに連れ去られたんだろう?」

「はは、あの気持ち悪い魚みたいなの、そういう名前なのか」

「ああ、そうだよ、そんなことも知らなかったのか」

「俺は、親から貰った本に書いてあった呪文を、彼女たちに教えただけだ」

「そうか」

と、言うと、ユアさんは男子生徒を蹴りあげた。

男子生徒は、たちまち気絶。

ユアさんは、ボクの方を向いて言った。

「彼を君の兄貴のとこに連れていけ。

後はやつがなんとかしてくれるだろう。

マイン、記事にするのはいいけど、ぼかすべきところはぼかしてな」

「「はあい」」

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