幕間1ー2 転生者「加賀山 大輔」の場合
今日は誕生会の前日で、僕は自室で友人たちへの招待状を綴っていた。
幼少からの親友であるカインや、級友のマークス。
彼らは公爵家の僕に対して、色眼鏡で見ずに対等に扱ってくれる数少ない人物だ。
「エル」なんて愛称で呼ばれている。
そんな気心の知れた友人たちを、僕は大切にしたい。
5人目になる招待状を書き終わったとき、入り口の扉が軽やかにノックされた。
こんな時間誰だろうか?
いまは日本時間でおよそ午前1時を回ったところ。
そろそろ僕も寝床につこうとしていたのだ。
「はい。失礼、どなたでしょうか?」
一応返事をしてみる。
すると、扉の向こうから、少し弾んだ楽しげな声が響いた。
「ああ、俺だ。エル、遊びに来てやったぞ」
ふっと、肩の力が抜ける。
なんだアイツか。
席を立って扉に向かおうとすると、彼は僕の返事を待たずして勝手に扉を開けてしまった。
「よお、暇してんだ。なにか駄弁って時間潰そうぜ?」
「はあ……君かカイン。勝手に他人の部屋のドアを開けるなんて、名家の長男にあるまじき無作法だね」
現れたのは、5歳からの幼馴染みのカイン・フォン・アドルーク。
【至高の五家】の一柱、アドルーク公爵家の長男にして、騎士院の首席卒業生である剣の天才だ。
幼いころから、僕とカインは魔術の天才、剣術の天才と言われ神に愛された二人と名を馳せていた。
おそらく今回の百年忌の勇者はカインだと、まことしやかに噂されている。
"百年忌"と言うのは、古来よりこの世界では、百年ごとに「魔王」と呼ばれる絶対的な存在が現れ、災厄を振り撒いていくという忌まわしき伝承である。
その魔王を討ち滅ぼすため、唯一神アルタの聖別により、人々を導く勇者を選ぶのだ。
「はははっ、勘弁してくれ。お前までそんなことを言ってしまえば、俺は拠り所を失うぞ?」
「人をいい逃げ場所みたいに………」
「まあまあ怒るなって、な? ほら、良い土産話があるんだ。聞いてくれよ」
「土産話?」
「ああ、俺が昨日会った奴のことなんだけどな――――転生者がらみっぽいぞ」
後半は、16年前からパタリと聞かなくなった懐かしい日本語だった。
そう、彼は………カイン・アドルークは、転生者。それも前世のクラスメートなのだ。
前世の名前は「望月 祐哉」、僕の親友だ。
祐哉は昔から、僕ら以外の転生者のことを探っているらしくて、いま目星が付いているのが、7~8人といったところだそう。
そして今回に目をつけたのが、これがまた【至高の五家】の一柱、ハーキンベルク公爵家の三女、末の娘にして奇才の、シーナ・ハーキンベルクその人である。
どうやら幼少から神童と謳われているらしく、寡黙で冷静沈着、クールな外見と情熱的な赤髪が美しいともっぱらの評判。
顔立ちも整端で、6歳で上位神官と同等の神聖魔法術を扱ったと言う逸話や、奇怪な文字列で魔法陣を形成したという話もにわかに存在するらしい。
「ふーむ、なるほどなるほど…。確かに怪しげだね。"奇怪な文字列"っていうのも疑惑要素だね」
「だろ? やっぱし転生はチートが付き物ってな。だから世界のチート持ちを片っ端から調べて回ってんだ」
「へえ、カインにしては利にかなってるじゃないか。少し大雑多すぎる気もするけれどね」
さてと、もうそろそろ寝なきゃね。
なんにせよ、明日の誕生会に彼女は出席するみたいだし、百聞は一見に如かず、だね。
あ、カイン泊まろうとしないで?
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