第8話 さあ、レベリングだ (3)



 アークに肉薄する。

 あと三歩も駆ければ、奴の脳天に一撃を構すことが出来る。

 普通のゴブリンや適当な魔物ならば、慌てるなり避けるなり、なんでもいいから動き出すだろう。

 だがまあ、案の定というべきか。


「―――――動かない、よなァ……」


 直立不動である。

 こいつのオツムからして、なにかを企んでいるのは確か………だよな?

 策があるのか、自惚れなのか。

 はたまた俺を侮ったか。


 いや、それはないな。

 相手だって第一次進化を遂げた猛者だ。

 敵の技量を見定めるくらいの目ん玉はしてるだろう。



 前のめりの前傾姿勢から、引き絞った左腕を最大の力で振り抜く。

 握りしめた短刀の刃が、俺を流し見るアークの左目に吸い込まれて―――――



 ―――――スカッ



「へッ?」


 切り裂いたのは脳髄でも眼球でもなく、何もないただの虚空だった。


 思わずその場でたたらを踏む。

 背後を振り返り、右を睨み、左を睨み、周辺を確認する。

 どこにもアークの姿が、ない。


 そう思った、その直後。


「いぎあぁッ!!?」


 背中に熱が迸った。

 ただの熱ではない。


 熱い、熱い、抉るような、蝕むような、そんな炎熱。


 火魔法術LV2、「火矢ファイアロー」。

 魔法術って、こんな痛いんだな。

 ―――――クソッタレが。


 地面を転がって火を消す。

 かなり痛いが、いまは我慢だ。


『ダメージ量総HP数値の20%をマーク。HP残量80%を切りました。ユニークスキル【起死回生】の能力により、全ステータス数値の20%が全ステータス数値にプラスされます』


 「起死回生」か………


 そういえばあったな、こんなスキル。

 

 アークを見据えると、奴はニヤリと嫌らしい笑みを向けてきた。

 俺の体を舐め回すような、そんな不快な視線だ。


「ギッ……オマエ、オンナ」

「………?」

「ギヒッ……オンナ、オマエ、オデ、オカスッ! ……ギヒヒッ」


 オカス?

 おかす?

 俺を、犯す?


 ―――――ハッ! そういや俺ってメスじゃね!?


 ヤベェ、ヤベェよコイツ。

 出会って5分のメスに堂々とレ○プ宣言しやがった。

 さすが淫魔、THEオスゴブリン。

 

 近頃のゼロから始めるゴブリン生活で忘れがちだけどね。

 俺ってば一応乙女(ゴブリン)の端くれなのよ。

 アークの野郎………。

 高い知能とか言っときながら、頭ん中ピンクな妄想でいっぱいじゃねえか。

 そもそも、普通に交際してコトに及ぶって考えは無いのか?

 ぶっ倒して強姦するって発想しか浮かばないのか


 ―――――浮かばないんだな。


 

 とりあえず、今度はアークに目掛けて直進するように突撃する。

 別に何も考えないでした訳じゃない。


「ハアッ!!」


 逆手に持った短刀を、アークの喉笛に突き出す。

 

 ―――――当たらない、消えた


 案の定か、やはりどこにも奴の姿がない。

 俺はおもむろに地面へ手のひらを向けて、魔法術を放った。


「"火矢雨ファイアロー・レイン"!!」


 赤い業火に包まれた一帯は、木々の陰を明るく照らし、一瞬だが昼間の陽の下のような光が闇を消し去った。


 ―――――さあ、どうなるか


 身構える。

 予想通りなら、奴はこれで姿をあらわす…………筈だ。


 失敗なら、死ぬ。

 そう思った時だった。


「アギャァァアアッ!!? ギアッ!? ギャアアッ!!!」


 よっしゃ!

 出たな宿敵、淫魔アーク野郎。

 か弱い乙女(ゴブリン)の敵には制裁と言う名の鉄槌を降さねば。

 うむ。



 炎に焼かれて、少しだが体力を持っていかれたアークが、恨みがましく俺を睨む。

 そんなに見たって俺は死なねえよ。

 どうせ、「何をしたッ!?」とか思ってんダロ?

 簡単だよ。


 俺がコイツの消える手品の種を教えてやろう。

 まずコイツの持ってる魔法術だ。


 「影魔法術LV1」。

 この魔法術のLV1は「影泳シャドウィム」、陰のなかを泳ぎ回れる魔法術だな。

 これを使って、この一日中真っ暗な森のなかを遊泳して格上相手に無双してたんだろう。

 どうりで第一次進化を出来たにしては低ステータスだと思ったが、弱くても勝てますって訳か。

 


 んでもって炎で陰を無くしたら、もぐらが土から顔を出したってとこだね。

 魔法術の炎だから、俺が意識をしなくなれば火は自然と消えていく。

 森火事にはならないから安心せいよ。

 安心のアフターケアだね―――――ちょっと違うかな?

 

 さあ、トリックは分かったぞ?

 隠れてみろ、すぐに引きずり出してそのきたねえ顔面八つ裂きにしてやるよ。

 さあて、こっからよ。

 第2ラウンド開始と行こうか、アークゴブリンさんよ?



 

 …………ちょっと思考がモンスター化してきている今この頃。







 ふぅ、何気にしぶとかったなアーク。

 まあでも、対処法さえ分かればただの作業ゲームだったかなー。

 さてさて、レベルのほうは如何程に?


『個体名「アキラ・ミカヅキ」のLV8がにレベルアップしました』

『スキル【刀術LV6】が【刀術LV7】にレベルアップしました』

『スキル【剣術LV4】が【剣術LV5】にレベルアップしました』

『スキル【理解力LV7】が【理解力LV8】にレベルアップしました』 

『スキル【気配関知LV2】が【気配関知LV3】にレベルアップしました』

『スキル【気配関知LV3】が【気配関知LV4】にレベルアップしました』

『スキル【魔法耐性LV1】を取得しました』

『スキル【第六感LV1】を取得しました』

『称号【同族ヲ殺セシ者】を取得しました』

『※絶対秘匿※「霊刀クサナギ・ムラクモ」が女神デルエルより委譲されました』

『受託を了承しますか?』


 ――――――――――ハッ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る