幕間1ー1 転生者「加賀山 大輔」の場合



 …いつもと変わらない景色。


 …いつもと変わらない時間。


 …いつもと変わらない仲間。



 友達と下らない猥談をして、嫌いな教師の愚痴を溢し、屈託なく笑い合う。

 いつもと変わらない、平和で退屈な、それでいて欠け替えの無い日常。

 そんな日常が、いつまでの続くとオレは思っていた。



 ―――――あの声が聞こえるまでは。



 それは何の前触れもなく、前兆なんて感じさせないくらい唐突に訪れた。

 日常の崩壊。

 改めて考えて見れば、現実には到底ありえない出来事だったんだ。

 それはそうだ。日本という凡平な国の温室でぬくぬくと育ち、普通の高校へ通って普通の生活を送っていたんだ。

 そんなもの、所詮2次元のなか。空想の世界の話なのだ。

 

 

 オレが教室で声を聞き、気を失ってから。

 次に目が覚めたときオレは―――――100cmにも満たない赤子だった。

 意味が分からず、目の前の巨大な人間の姿に、不思議な圧迫感と不安感が吐き気となってオレの喉へと押し寄せ、ひどい嗚咽とともにみっともなく泣き叫んだ。







 そして現在。ルーデルリッヒ公爵家の次男坊として生を受けたオレは今世で授かった名前、エリシオン・フォン・ルーデルリッヒとして2度目の人生を順風満帆に謳歌している。

 生まれたばかりの頃の悪感情は、この15年間がすべて洗い流した。

 いや。正確に言うならば、もう初めの3年くらいで綺麗サッパリ無くなっていたのだろうか。


 その要因とも言えることのひとつ。

 それがこの世界の常識を根本から支えている存在―――――「魔法」だ。

 正式名称は魔法術とも、魔術法とも言い、あまた千差万別の姿を持っている。

 だがそれらは総じて奇跡的な力で、世界を改変する特異であり危険な能力だ。

 

 オレは生まれながらに――転生チートと言うのだろうか――魔法術の才能があり、前世の記憶もあって人一倍魔力を扱うことに長けていた。

 言ってみればこの世界はゲームみたいなものだ。

 死んでも人は蘇ることが出来るし、ステータスやスキルなんてものや、剣閃と魔法の光がこだまする戦場は、ほんの少しの恐怖と、それを塗りつぶす高揚感が渦を巻いていた。



 ―――――オレは魅了されたんだ。


 編み目のように交差し屈折する光の糸が、空をめぐる星ぼしの如く軌跡を描き、やがてひとつの形を紡ぎだす。


 そんな、どこか現実離れした美しさにオレ――僕は魅了されてしまったんだ。







 ルーデルリッヒ公爵邸にて、僕は16歳になる。

 三日後には僕の誕生会を執り行うらしい。

 仲の良い貴族の御人や、いつも世話になっている行商隊キャラバンの隊長である大商人のおじさん。他にも顔見知りの下位爵の貴族だったり、ほぼ関係の無いような遠い知り合いの侯爵家だったり。

 とにかく沢山の人を呼んで、パーティー会場で盛大に開催するらしい。

 なんでもコッチでは16歳からは成人らしくて、僕の成人式もかねてするらしい。


 後者の下位爵の人たちは、多分だが僕の正妻という地位が欲しくて娘を見繕ってきたような口だろう。

 自惚れではないがこれでも僕は一応この国、エルリベルテ神王国の名家【至高の五家】の一柱、ルーデルリッヒ家の次男坊だ。

 兄のダスティンは王立魔法術師団【ロ・エンテ】に行って現役軍人だし、ルーデルリッヒ家の跡目に一番近いのが、この僕だってことも理解しているつもりだ。


 それでも、地位目的で僕に言い寄ってくる女は、正直言って好きじゃあない。

 どちらかと言えば嫌いの部類に入るだろう。



 そんなとき、僕は出会った。

 パーティー会場にひとり退屈そうな顔で椅子に座る、可憐な赤い髪の彼女を。

 だがそれはまだ、今日からまだ三日後の話である。

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