Chapter15『漫画が教えてくれた・後編』

8年ぶりぐらいの実家でした。

10歳になった息子を連れて居間に入ったら、


家族全員と親戚が怖い顔で座っていて、

ああそうだ、うちの家族って、

自分達のルールの中で生きない人を、

ゴミでも見るような眼で見てたなぁ、

ということを思い出しました。


物陰に隠れる兄や姉の子供達は、

何やら吹き込まれているのか、

異質なモノでもを見るように息子を睨みつけていました。

なんだかその子達が可哀そうでした……。

ああ、歪んだ大人になってしまうのだろうなって……。

私がそんなことを考えていると、

父がタバコを灰皿にネジつけて口を開きました。


「漫画なんか描いてるのか?」

「くだらない世界で生きて一族の恥をさらすのか!」

父は血管を浮き上がらせて私を見ます。

一族とか言ってますけど、普通のサラリーマン一家です。


「本当に恥ずかしい。お母さんは、

こんな子に育てた覚えは無い。

お兄ちゃんとお姉ちゃんは素直に育ったのに……」

母は涙をしきりに拭いました。

そう、兄と姉は素直に洗脳されて、

弱い人を馬鹿にするような人にしっかり育ってました。


「今からでも、息子を施設に入れろ」

兄の言葉でした。

「身辺を綺麗にしたら、私の会社で使ってあげる」

姉の言葉でした。


家族の言葉とは思えませんでした。


「本当に恥ずかしい娘だ!」

「漫画なんてくだらない!」

「もっとしっかりしろ!」

「近所でも笑われてる!」


途切れない暴言に頭がクラクラしてきました、

だけど、負けたくなかったので、

私は俯かず、父達を真っ直ぐに見ました。

そんな時、息子が立ちあがったんです。


「お母さんは恥ずかしくなんかない!」

全員が黙り込みました。


「お母さんはいつも一生懸命だし、

お母さんの漫画は凄いんだぞ!」

もうそれだけで、私は救われました。


「お母さんの漫画は、

女の子が悪い人にいじめられるけど、

誰にも頼らず戦うんだ!」

「誰も助けてくれないけど、上を向いて戦うんだ!」

「僕はいつも、その子を助けたいと思うんだけど、

何も出来なくて……でも、助けたいって思うんだ!」

「お母さんをいじめるおじさん達は悪者だ! 

お母さんをいじめたら僕が許さないぞ!」


息子は私の漫画を読んでいたんですね。

仕事仕事で、たいして何もしてあげられない毎日だけど、

知らない間に、一丁前なことを言うようになってたんです。


でも言い切った途端に、涙ボロボロ流してましたね。

まぁ、うちの父達の目は、

ヤバイぐらいにギラギラしてますからね。


でも、息子から沢山勇気を貰いました。

もう何も臆することも無いし、何も怖くありませんでした。


『君をいじめるやつは僕が許さない』

こんな言葉が子供の頃に欲しかった。

親にいつも助けて欲しいと思っていた。

同棲した彼に助けてもらえると思ってました。


でも、心を救ってくれたのは息子でした。


「さよなら、もう二度とお会いすることもありません。

私の家族はこの子だけです」

笑顔でそう言ってやりました。

そして息子を強く抱き締めました。


そして今、漫画を描いてます。

息子と同じように、誰かが、

何かを感じとってくれるような漫画を届ける為に。


なんてカッコいいことを言いながら、

連載があるわけでもなく、

知名度も低い漫画家なんですけどね……。


でも、何だか大丈夫な気がします。

息子がいればね、きっと。


―了―

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