1月3日 瞳

「唐突ですが貴方の瞳に惚れましたので僕と結婚しろください」

「嫌ですお断りします」

桜も舞わない冬のこと。

私は唐突に。

全くの見知らぬ通行人に、プロポーズされてしまった。



☆☆☆☆☆



私はとある普通の高校生。

言ってしまえば現役jkである。

周囲からは少々刺々しい、とは言われるが私自身そうとは考えていない。

─────そんな、少々刺々しいらしいぴっちぴちの現役jkである私は、とある迷子を探していた。

探しているのは2日前に都会の方から泊まりに来ている母の妹────つまりは叔母の娘、私の従姉妹にあたる、小学二年生の女児。

私とその子は一緒に散歩をしていたのだが、たまたま散歩道を通り掛かった野良犬に怖がり彼女は一人走り何処かへ行ってしまったのだ。

ここは彼女の知る土地ではない。

彼女は私の家にも辿り着けないだろう。

つまりは、迷子であった。

そんな迷子を探すべく自宅近辺を歩き回っていたのだが………。

その末がこれだ。

「結婚しろください」

「嫌ですお断りします」

………。

………。

…………………………………。

「は?」

私が次に漏らしたのはそんな、疑問に満ちたと言うより「何だよコイツ」と言いたげな「は?」と言う声であった。

と、相手は、私が声を漏らしたのと同時に睨んだことに気付いたのか否か、「たんまたんま落ち着いて」と、身振り手振り「ね?」と私に落ち着くよう促した。

いやいや私より先に貴方精神科行った方が人類の為ですよ。

てか私の為になります。

道行く女子に、しかもjkにいきなりプロポーズするなんて。

絶対精神狂ってやがるぜ。

────おっといけない、私の方も狂い始めていた。

私は一度「すぅぅ、はぁぁ」と方を大袈裟に動かし深呼吸すると。

「で、私にプロポーズした経緯を教えてはくれませんか?もしそれがストーカー間際のような、変態のような理由だとか「適当」とかならば容赦無く110番ですが」

私の言葉に相手はおどおどと「え、えーっと、ほ、ほら、ナンパの一種だよ」と苦笑気味に言った。

どんなナンパだよ、それなら「君かわうぃーねー!」のチャラ男芸人の方がまだ立ちが良いぞ。

と、私は彼に「確か、そこの角を曲がったところに交番がありませんでしたっけ」と首も傾げず真顔のまま聞いた。

そんな私の問いに彼はふるふる、というかぶんぶんと必死に首を振り。

「しっ、知らない!そんな交番僕が買い取ったよー」

と苦笑気味に慌てた様子で言った。

見たところ彼は私と同い年か、一つ違い。

どちらにしても年の近いはずなのだから買い取るなんてそんなこと出来るわけ無いだろ。

買い取ったら取ったで毎日クレーム入れてやるわ。

と、私がそんなように思いながらも「そうですか残念です。買い取りがんばれ(笑)」と言ったところで。

「あ~!おね~ちゃん、居たよ~」

丁度私のバックから、そんな声が聞こえてきた。

私はその声の主が直ぐ分かったので、即答で言葉を返す。

「もう、何処行ってたのよなーちゃん。お姉ちゃん心配したんだからね?」

そして後ろを振り返り、例の迷子っ娘のもとへと駆け寄ろうとした瞬間────────

「おねーちゃんとおにーさんのふーふげんか、おもしろかったよー」

はい?

私は迷子っ娘の顔を見て視線を逸らし、再び見てみる。

が、その子の笑顔は何処からどう見ても純粋一卓な裏の無い澄んだ笑顔。

この子が嫌みで言っているとも思えない。

けど、ねえ。

夫婦喧嘩、とか。

そんなこと言えば。

このプロポーズ変質者が調子に乗るに決まって────────

と、私が思っていた時。

「今ので確信したけどやっぱり僕と貴方は運命の人なのでとりあえず結婚しましょうか」

「何言ってんだ変質者が。断固として頷くものか」

予想外でもなく予想通りに言ってきた何度目かのプロポーズの言葉に私はそんな風に対応した。

「ねっ、その子を僕と貴方の子供ってことにして」

「その子は私の従姉妹だ、勝手に子供にすんな」

何なんだよコイツ。

従姉妹も見つかったんだし早く家に帰って「ラズドラ」でもしたい。

んでもって季節に合わせて正月料理の余りでも食べたい。

「ね、兎に角貴方の瞳に惚れたんで結婚しましょうよ」

「私が初対面の人に惚れられる言われも、交際すっ飛ばして学生結婚する理由も無いんですけど」

それに………。

「瞳瞳連呼しないでもらえますか?」

どうも恥ずかしくてたまらない。

まあそれはおそらく偶然のことなのであろうが。

ていうか偶然じゃなかったらストーカーとして警察につきだしてやるわ。

と、私の要求に予想通り彼は首を傾げ「何でですか?」と聞き返してきた。

質問に質問で返すなよ、ややこしい。

と、言いたいところなのであるがこの場合は仕方がない。

とりあえず私は。

「何ででもです」

と言って言葉を濁しておいた。

「それが分かるまで僕ここから離れませんよ?」

彼の言葉に私は「言ったなあ?」と確認して「私は用も済んだので帰ります」と丁寧に挨拶をし、従姉妹の手を引いて家へと向かった。

「あのね~、そいで、虫さん見つけてちちんのぷいしちゃったおねーさんがいてね~」

「凄いねーそのお姉さん」

従姉妹の話を聞き流しながらも私は内心溜め息を吐く。

従姉妹の如何にも子供らしく正直つまらない話に、ではなく。

さっきのあのプロポーズ変質者に対しての、だ。

一体彼奴は何だったのか。

思い返してみると怪しい奴でしか無かったのだが。

顔は、まあ中の上くらいで悪くは無かったと思う。

背格好からしても私と同い年とかそこらへんだったし。

もし私があのプロポーズを受けていたら。

果たして、どうなっていたの………かな?

まあ絶対二日、精々三日で離婚絶縁一生バイバイと言ったところか。

と、私は、そんなことを思いながらも従姉妹の言葉に相槌を打つ、等と言うこと繰り返しているといつの間にか家の前に到着していた。

「ただまー!」

従姉妹が元気に玄関を開け靴を脱ぎ散らかしたままリビングへと入っていく。

私は靴を脱ぎ、きっちりと揃えて「ただいまー」と、リビングへ足を踏み入れた………の、だが。

「何でお前が居るんだよ」

「やっぱ僕ら運命なんだよ、結婚するしか」

「親の前でやめろこら」

先程のプロポーズ変質者。

名前の分からないストーカー野郎がいた。

「ひいちゃん、お隣さんにそんな口叩かないの!」

え?

私は母さんの忠告も聞き入れず、「おとなりさん」の単語を一生懸命に「お隣」以外の単語に変換しようとしていた。

音なり、オトナリ、嘔吐なり、OTONARI………

だが、いくら考えてもやはり最終的に至る結論は一つだけで。

私は意を決して変質者に向かって言った。

「もしかして貴方隣のとと─────」

「じゃなくて隣の家に引っ越して来た夫婦の一人息子です」

笑顔のまま変質者はそんな私にとって地獄的なことを言った。

………マジか。

今日から変質者と、お隣同士………。

「あと聞いたところによると多分高校も一緒です」

「ちくしょーーーーー!神様の意地悪ーーーー!」

「またまたー、照れちゃって。本当は神様に感謝したいんじゃ」

「したくないわ、お前との縁を保たれてもそんなの誰得でも無いわ」

「僕得ですっ☆」

「やめろ、きめぇからやめろ、今すぐ私の前から消え失せろ」

「そんなこと言わないでよ~、ひいちゃん☆」

「こら私の名前を誰に──────」

ってあの母さんか!

あとで覚えてやがれよクソババアーーー!

「改めて貴方の瞳(笑)に惚れましたので僕と結婚しろください」

「今は笑っただろお前!絶対笑っただろ!てかお前、何処で私の名前聞いてきたんだ!」

「未来の義息子だと言ったら直ぐに」

「おい母さんー!何やってんだよ!」

と、こうして私こと瞳とプロポーズ変質者こと最低GUESS早く死んでくれないかな君の地獄物語は、スタートしてしまったのです。

ていうかそんな物語早く終われよ、こいつ嫌だよー、もう嫌だよー!

私は。

プロポーズ野郎よ早く滅亡しろ、とか何とか思いながらも。

無垢な笑顔を向けてくる従姉妹の頬を。

思いきり嫌味としてつねっといておきました。

「やっぱり貴方の瞳惚れ──────」

「惚れんな馬鹿消え失せろください」

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