1月2日 姫初
「ひっ、姫初、しませんか?!」
「………何かのゲームですか?良いですよ!やりましょー!」
今日、1月2日は、姫初の日である。
姫初とは。
初めての子作りのことである。
☆☆☆☆☆
私は、今年で27になる高校の理科教師だ。
見た目が幼いからか理科教師に、というかそもそも社会人に見えないと言われることは置いておいて。
私は一昨年、同じ高校で事務員として働く同い年の男性と愛でたく結婚した。
所謂職場恋愛ってやつだ。
かなりのスピード婚だったと思う。
彼は、優しく気も遣え、ややドジなところはあるが愛嬌もあるため誰からも好意をもらえるような存在であった。
それに加え見た目も良いので、更にモテた。
重要なことなので二回言わせてもらうが、結構モテた。
まあそんな人が職場にいたら、放っておく女子は中々居ないだろうと結婚したのだが。
結婚生活二年目。
先週、忘年会兼同窓会と言うことで集まった中学時代の友人に、こんなことを言われてしまった。
「あんた、まだ子作りもしないの?」
その言葉に思わず口に含んでいたチューハイを吹いてしまったことはまた別として。
その友人の話によると、もうそろそろ子作りを初めてもおかしな話では無いらしい。
私が「した方がいいのかなー」と悩んでいるとその友人は「アドバってあげるからしなよー」と言うので彼女の提案通り本日、子作り日こと姫初の日に彼にそんな話題を持ちかけてみたのだが。
結果は。
「どんなゲームなんですかー?姫初って」
ご覧の通り勘違いされていた。
いやまあ分かられたら分かられたで恥ずかしくて蒸発してしまいそうなのだが。
でも勘違いされるのもなー………。
困る。
「ねえ、綾乃さん、どんなゲームなんですかって。新年早々ゲームなんて、なんかカップルっぽいですねー」
カップルじゃなくて夫婦ですよ、私達。
というか、完全にゲームだと勘違いされてしまっている。
どうしようか。
うむ。
どうしようか。
まだ私には子作りは早いと言うことなのだろうか。
ならば。
「あ、あの、歩、やっぱり今のは無しで………」
「綾乃さんが教えてくれないなら、天下のグーグレ先生に頼っちゃいます!」
おい人の話を聞け!!
と叫びかけたが、叫ぶ前に彼は片手近くにあった携帯を手に取り、起動させ───────
「姫初!」
グーグレの音声検索機能を開いて、そう笑顔で言った。
返ってきたのは無機質な機械音。
「姫初め、とは、諸説ありますが主に頒暦の正月に記された暦注の一。 正月に軟らかく炊いた飯(=姫飯(ひめいい))を食べ始める日とも、「飛馬始め」で馬の乗り初めの日とも、「姫糊始め」の意で女が洗濯や洗い張りを始める日とも言われます」
──────え?
無機質な機械音が言ったことは、私が友人から聞いた情報とは全く異なるものであった。
私が聞いた話によると、「ひめはじめ」とは「姫初め」と書き、新年初の子作りのことを言うんだと聞いたのだが。
あの野郎め────今度あったら何か奢らせるとするか。
全く、腹が立つ。
というか、恥ずかしくなる。
私の思っていた「姫初め」と一般的な「ひめはじめ」とは全く違うものだったのだから。
恥ずかしがって損したよ、全く。
私が溜め息を吐き「やっぱゲームやめましょ」と言い掛けたとき。
その無機質な音で、当たり前だけれども何を考えているのか、私を貶めたいのかよと言いたくなるような声で。
そいつは、静かに言った。
「ただし、近頃では、新年初の子作り日、という説もある」
おいこら。
ふざけるな。
否、私の聞いた情報があっていたのはありがたいけど。
それを旦那の前で読まれるとか。
もう。
もうもうもうもうもう─────────!
「………ひ、ひめはじめは、やめときましょ」
「そ、そだね………」
………。
………。
あはは。
私の夫婦仲は新年早々。
結構気まずいものになってしまったようであった。
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