第10話‐2 星を探して

 上目使いで聞いてくるふゆが、とてもかわいくて。二階堂は、思わずうなずいてしまいたくなった。が、瞬時に思いとどまり仕事モードで尋ねた。


「お星さま?」


「うん。ふゆの宝物なの」


「どこで落としたのか、覚えてる?」


 ふゆは首を横に振った。


 どうやら、気がついたらなくなっていたということらしい。


「そのお星さまのことで、何か覚えてることはあるかな?」


「えっと……大きさはね、これくらいだった」


 と、ふゆは、自分の右手のひらを二階堂に見せた。


 お星さまの大きさは、手のひらサイズのようだ。


 なるほどと二階堂はつぶやいて、


「さっき、ふゆちゃんがいた場所に落ちてないか見てくるから、ちょっと待っててね」


 と、彼女の頭を軽くなでた。


「蒼矢。ふゆちゃんのこと、頼む」


「へいへい」


 蒼矢のやる気のない返事を聞くと、二階堂は先程ふゆと出会った場所に向かった。


 平日の午後ということもあり、路地は静かだった。時折、通行人とすれ違うが、それも休日と比べると少ない。


(えっと、たしかこの辺だったよな……)


 ふゆと出会った場所付近に到着した二階堂は、さっそく辺りを探し始めた。


 大きさしかわからないが、それでも手のひらサイズはあるのだ、探せば見つかるだろう。そう楽観的に考えていた。


 しかし、見つからない。どこを探してもないのである。


 二階堂は、もう一度この周辺をくまなく探すことにした。生垣いけがきの根元や側溝の中まで。


 だが、やはり見つからない。いくら探してもその手がかりすら見当たらないのである。


(おかしいな……。この辺で落としたわけじゃないのか?)

 

 考えていてもらちが明かない。二階堂は一旦、自宅に戻ることにした。


「ただいま」


 と、リビングに戻ると、蒼矢とふゆが楽しそうにテレビを見ていた。


「おう、お帰り。見つかったか?」


 二階堂に気づいて、蒼矢が応える。


「いや、ふゆちゃんと会った場所にはなかったよ」


 ため息交じりにそう言って、二階堂は椅子に座る。


「それにしても、二人とも打ち解けるの早くないか?」


 と、二階堂が尋ねる。


 二階堂が外出してから戻ってくるまで、せいぜい三十分かそこらしか経っていない。にもかかわらず、まったく会話すらしていなかった二人が、同じソファーに座って子ども向けのアニメを見ているのだ。二階堂でなくても驚くだろう。


「それは……ほら、人ならざる者同士ってことで。なあ? ふゆ」


「ねえ、蒼兄ちゃん」


 と、蒼矢とふゆはほぼ同時に言って、うなずき合う。


 ふゆが意味を理解しているのかはわからないが、思った以上に二人の息は合っているようだ。


 そんな二人を見て微笑ましく思っていた二階堂だったが、そうだと思い出したようにつぶやいて、


「ねえ、ふゆちゃん。ここに来る時、どこか歩いて来なかった?」


「ん~……えっとね、きらきらがいっぱいあるとこ歩いたよ」


 二階堂の問いに、ふゆは何かを思い出すように少し思案してから告げた。


「きらきらがいっぱい……?」


 二階堂は何のことだかわからず、首をひねる。


「……あれじゃね? 商店街のイルミネーション」


 蒼矢が助け舟を出すと、


「ああ、あのクリスマスイルミネーションか!」


 と、二階堂は合点がいったように言った。


 商店街では、毎年十二月になると街路樹や街灯などをイルミネーションで飾りつける。また、店先には雪だるまやトナカイ、サンタクロースなどの置物が置かれ、雰囲気をクリスマス一色に染め上げていくのだ。それがとてもきれいで、ちょっとした人気スポットになっている。


「それじゃあ、商店街に行ってくるよ」


 と言って、二階堂はすっくと立ちあがる。


「あっ! ふゆも行く!」


 そう宣言すると、ふゆは二階堂のもとへと駆けてきた。


「だとさ。三人で行こうぜ」


 と、蒼矢。


 二階堂はうなずいて、蒼矢とふゆとともに商店街へと向かった。

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