第2話‐9 帰還

 職員室の扉を開ける。


「ただいま戻りました」


 二階堂がそう言うと、期待と不安が入り交じった表情で吉川が駆けてくる。


「二階堂さん! 生徒達は、西園先生は見つかったんですか?」


 吉川のあまりの勢いに二階堂が気圧されていると、


「よっぴー、二階堂さん困ってる」


 二階堂の後ろから、えりがひょこりと顔を出して吉川をたしなめた。


 それを合図に、一行は職員室に入る。


 行方不明になっていた四人の無事を確認した吉川は、涙を流しながらよかったとうわ言のように口にする。


「……先程は、取り乱して申し訳ありませんでした」


 数分後、落着きを取り戻した吉川が、恥ずかしそうに謝罪する。


「いえいえ、お気になさらず。それだけ、本気で心配してたってことですから」


 と、フォローした二階堂は、思い出したようにズボンのポケットから名刺入れを取り出した。いつも持ち歩いているのである。


 それから名刺を二枚取り出すと、


「また何かありましたら、連絡してください」


 そう言って、教師二人に一枚ずつ手渡した。


 二人はそれを受け取ると、礼を言って深々と頭を下げる。


「助けていただいて、ありがとうございました! それで、あの……お金なんですけど……」


 えりがおずおずと二階堂に告げると、


「お金はいらないよ」


「え? でも……」


「困ってる人を助けるのが、僕達の仕事だからね」


 それではと、二階堂と蒼矢は職員室を後にした。


 昇降口を出ると、雨はあがっていた。雨あがり特有の冷えた空気が、とても心地よい。


 二人は、記憶を頼りに駐車場へと向かう。


 少し迷いはしたものの、何とか駐車場にたどり着き車に乗り込む。


「しっかし、振り回されただけだったな、今回」


 シートベルトを締めながら、蒼矢が言った。確かに、報酬はないしフウコさんに振り回されただけだったような気がしなくもない。


「それにしては、蒼矢も結構楽しんでたように見えたけど?」


「まあな。かくれんぼなんざ、ガキの頃以来だぜ」


「僕もだよ。たまには、こういうのもありかもな」


 二階堂はそう言って、エンジンをかけながらフウコさんの満足そうな横顔を思い出す。


「さてと。それじゃあ、帰りますか」


 気を取り直すように言って、私立星降学園を後にしたのだった。

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