ひとりっきり

胡桃乃かんな

ひとりっきり

僕はひとりっきりだ。

昔は、ふたりっきりだった。

山の奥、小さな木造りの家におじいちゃんとふたりっきりだった。

生きるために必要なことはおじいちゃんが教えてくれた。

そしてある日おじいちゃんが、、、

それは突然だった、嵐の夜が明け清々しい青空、僕はおじいちゃんに朝ごはんを持って行った、温かいキノコのスープを持って行った。

おじいちゃんは冷たかった。動かなかった。

涙が出た。今まで涙は転んで痛い時、狩がうまくいかず悔しかった時そんな時に出て来た。でも今はそれとは違う感情、これが、悲しいなのか。

一晩中泣いた、泣いて、泣いて、疲れて、寝た。

次の日、僕は、僕のお父さんが眠っているとおじいちゃんが言っていた大きな木の下におじいちゃんを寝かせてあげた。


そして僕はひとりになった。


それからは、僕が狩をして、僕が料理をして、僕が食べた。僕が洗濯をして、僕が掃除をして、僕はひとりでねた。ずっと、ひとりだった。


寂しくはなかった、、


でも、村に行くことを何度か考えた。

昔、おじいちゃんから聞いたことがある、大きな山を下り広い川を越えて、長い草原を抜けた先に大きな村があると。

そこには、たくさんの人がいて、たくさんのものがあり、たくさの感情があると。

僕は怖かった自分が知らないものに触れることが、怖かった。でも、興味はあった。だか、踏み出せなかった。


ある日のこと大きな音が森の奥から聞こえて来た。なんの音かはわからなかったが僕は行ってみた。ひとりの人がいた。その人は足を痛そうにしていた。僕は駆け寄った。


「大丈夫?」

「足を挫いてしまって」

その人の声はおじいちゃんとは違う高い声で、でも、おじいちゃんと同じ優しい声だった。


「家まで案内する」

「ありがとう」

その人をおんぶし家まで連れて行った。

その人はなんだか柔らかくて細くていい匂いがした。


家に着き僕はその人の手当てをした。

その人が問いかけて来た。

「手当てありがとう、君はひとりで暮らしているの?」

「うん、僕はひとりでくらしているよ」

「そうなんだ、私の名前はマリ君は?」

「僕の名前はアリ」

「アリはいくつ?私は19歳よ」

「僕は多分、18歳」

「多分?」

「うん、多分。昔、おじいちゃんが 10歳の誕生日にとこのペンダントをくれた。それからきっと8年くらいがたった」

「そうなのね。素敵なペンダントね。おじいちゃんはどうしているの?」

「もういない、森の大きな木の下で寝ている」

「そうなのね」


こんどは、僕が気になったことを聞いてみた。

「マリはどうして声が高くて、体が柔らかくて細行くて、いい匂いがするの?」

「それは、女の子だからよ」

「女の子?」

「そう、女の子。アリは男の子で私は女の子」

「そういうものなの?」

「そういうものよ」

「森で聞こえた大きな音は何?」

「猟銃の音よ」

「猟銃?」

「そう、これよ。これで狩をするの」

「そうなんだ、僕は弓で狩をする」

「そうなのね」

「マリはどこから来たの?」

「私は村から来たわ」

「村?村って大きな山を下って、広い川を越えて、長い草原を抜けた先にある村?」

「そうよ」

「昔、おじいちゃんに聞いたことがある。」

「そうなのね。行っことは?」

「ない、僕はこの山から下りたことがない」

「そうなのね。興味は?」

「ある、あるけれど怖い」

「それなら、私が教えてあげるは」


マリは僕にたくさんの話を聞かせてくれた村からここまでの話、村の話、家族の話、食べ物の話、たくさんの話をしてくれた。僕は楽しかった。村にさらに興味を持った。怖くなくなった。


僕はお礼に狩をして、ご飯を作った。数日が経ちマリの足が治ったので弓の使い方を教えた。マリとの時間は楽しかった。マリとの時間はあっという間だった。


マリが元気になったからそろそろ帰ると言った。


僕はマリの話をもっと聞きたかった。


僕はマリともっと一緒に居たかった。


マリは帰った。

僕は見送った。


僕の心に大きな穴が空いた気がした。

この気持ちはなんなのだろう。


数日後、僕は思い出した。10歳の誕生日におじいちゃんがペンダントをくれた時、おじいちゃんは言った。

「これはお前のペンダント、もう1つは大切な人ができたら渡しなさい。それまでは大切に持っておくのだよ」

「大切な人?」

「ああ、大切な人だ。お前が守りたい、ずっと一緒に居たいと思う人だ」

「じゃあ、おじいちゃんにあげる」

「それはダメだ」

「でも、僕とおじいちゃん以外に人はいないよ?」

「そうだな、でも、いつか、渡すときがくるはずだ」


僕はマリのことだと思った。


僕は走った。


もう1つのペンダントを握りしめて走った。


山を走った。


川を越えた。


無我夢中で走った、何日経ったかわからない、走り続けた。


お腹が減った、怪我もしていた、でも走った。


草原の途中でマリを見つけた。


「マリ」

僕は叫んだ。


マリは驚いた顔で振り向いた。


「アリ、あなたなんで」

「マリともっと一緒に、ずっと一緒に居たかったから」

「それで追いかけて来たの。」

「うん、これ」

「これは?」

「ペンダント、おじいちゃんが大切な人に、守りたい人に、ずっと一緒に居たい人に渡せって言っていたのを思い出したから」

「ありがとう」

マリは泣いていた。

「どこが痛いの?」

「いいえちがうわ」

「何か悔しいことがあったの?」

「いいえちがうわ」

「何か悲しいことがあったの?」

「いいえ、それもちがうわ」

「どうしたの?」

「うれしいの、ありがとう。私もアリと一緒に居たいわ」


僕はマリの手からペンダントを取り、マリの首にかけた。


「じゃあ、帰ろう」

「ええ、でもその前に一度家族に会いに行くわ。アリもきてくれる?」

「僕も一緒に?」

「ええ、まだ村は怖い?」

「いや、マリにたくさん話を聞いて怖くなくなったよ」

「よかったわ」


僕は村に行った。

たくさんの人が居た。

たくさんのものがあった。

人々は笑ったり泣いたり怒ったり、いろいろな顔をしていた。


マリの家族は優しかった。

たくさんのことを教えてくれて、たくさんの美味しいものを食べさせてくれた。

僕は村に数日間滞在した。

僕はマリの家族にまたくると約束をしてマリとともに村を出た。


帰り道たくさんの話をした。

それでも僕はマリともって話していたい、もっと一緒に居たいと思った。


長い草原も広い川も、大きな山もマリと一緒なら瞬きをするように一瞬に感じた。


家に着いた。


マリが僕に行った。

「アリ、愛しているわ」

僕は愛しているがよくわからなかった、でも、僕の口から勝手に言葉が、感情が溢れ出た。

「マリ、僕も愛しているよ」


そして僕と彼女はふたりっきりになった。

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ひとりっきり 胡桃乃かんな @kanna_kurumino

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