12

 暗い廊下に上靴のゴムのすれる音だけが響く。夜中の学校は昼間と違い、冷たい牢屋のようだ。

 目指す目的地は三階の廊下のつき当たり。校舎の隅に追いつめるのだ。二階の生徒会室からだとたいした距離ではないが、校舎の無機質な造りが浮きあがって、同じ廊下をどこまでも歩いているような感覚に陥る。

 闇の中に消火栓の赤いランプが灯台のように点いていて、そばまで行ってそれが巨大な魔物の目だと知った時は悲鳴をあげそうになった。笑いをこらえる遠藤をにらみつけて黙らせる。

 先頭を行く遠藤がふりかえった。

「なあ。こんなふうに歩いててヤバくね?」

 一番後ろを歩く六道先生は首をかしげる。

「なにが」

「外から見えたら、内申に響くって話」

 私はぎくりとしてエアガンを両手でつつんだ。確かにこんな時間に制服着て武器持って闊歩しているなんて、誰が見たってあやしい。

 先生は鼻で笑う。

「言ったろ、結界張ったって。外から俺たちは見えないし侵入もできない。一応宿直室にも張ってきたから安心しろ。それにしても、遠藤も内申を気にするんだな」

 遠藤は顔をしかめる。

「オレだって人並みに気にしてんだよ」

「サル並みだろ」

 遠藤はぽつりと言った乾に軽くキックを入れ、乾は軽くかわす。そのようすに私と会長はくすくす笑った。こういう時でもなごやかな雰囲気なのは、みんながいるからだろう。

 その時、背後から硬い物を打ちつけるような音が上がった。ふりかえると、六道先生が自分の黒い棍を床に突きたてている。

 持ち上げて、もう一度。大きな音は静かな廊下の隅々まで響きわたり、闇をふるわせるかのようだ。

 いや、本当に闇がふるえた。

 先生の背後に広がる闇がゆれて、無数の小さな金の目が波打つように現れる。先生がまた床を打つと、目は音に共鳴するようにふるえ、まさしくクモの子を散らすように廊下の奥へ引いた。あとには、歩いてきた廊下がのびているだけ。

 立ち尽くす私たちを、先生はしたり顔で笑う。

「やつらの常套手段だ。闇に乗じて忍びよってくる。今は脅しただけだから、また来るだろう。お前らも油断してるとひっぱられるから気をつけろよ」

「ひっぱられるって」

 私が尋ねたとき、嫌な感じが背中を襲う。先生は私たちの向かっていく方向を顎で指した。

「ああなる」

 え、と引きつり気味でふりかえると、いつのまにいたのか、三つの影が立ちふさがっていた。学ランからしてここの生徒だろう。乾と遠藤が身構える。私はまんなかの人物に愕然とした。

「……局、長?」

「取井の友達か」

 構えたまま聞いてきた乾を、私は殴りたい衝動に駆られる。

「ばかっ。真ん中は新聞局の局長なの。あとは誰かわかんないけど局員かな」

「知ってる。亨の後輩だ。パソ部の一年。でも、どうして」

 答える会長の声もふるえている。それも当然だ。三人とも下手くそなあやつり人形のように身体を左右にゆらしながら、こちらにじわじわ近づいてくるのだから。普通じゃない動きがかえっておそろしい。まだ彼らとの距離は教室ひとつ分もあるというのに。

 六道先生が頭をかきながら説明した。

「まったく。おおかた隠れて遊んでたんだろうな。廊下に出たところで魔にひっぱられたんだ。そら、取井。撃て」

 私は驚いて先生を見た。先生は真顔で彼らを見据えている。

「できません! だって、人間相手ですよ?!」

「今は人間じゃない。じゃあ遠藤。さっき教えたな。飛び込んでいって、突いてみろ」

 指名されたほうは動揺したが、すぐ走りだした。すでに距離は半分に縮んでいたので、遠藤は数歩走ったあたりで棍を突き出す。

「ごめん!」

 棍は一番手前にいた局長のみぞおちに当たり、私は胃に衝撃をくらったように顔をゆがめる。しかし同情はすぐに忘れた。

 局長は数歩よろめいて床に崩れた。ところが痛みにうめくどころか何事もなかったように立ちあがったのだ。

「ななな生ゾンビは勘弁してくれよな」

 遠藤がバックステップで戻ってきた。私も後ずさり、六道先生にぶつかる。

「取井。わかったな。今は人じゃない。ただ魔物に憑かれているんだ。無傷で祓ってやりたいなら、身体のどこでもいいから、それを撃ちこんでやれ」

「は、はい」

 手の汗を制服でぬぐうと、グリップを握り直した。会長の教えてくれたことをひとつひとつ思いだしていく。

 安全装置をはずして。

 銃身をまっすぐ的にむけて。

 照準を局長に合わせる。  あれは人じゃない、彼そっくりのマネキンだ。ためらうことはない。

 私はトリガーを引いた。

 胸に命中し、局長は絶叫した。そのすさまじい声は聞くほうも絶命するように思わせる。そして絶叫を形作るように彼の背中から影がはがれて空気に溶け、局長は力なく崩れた。

 影の正体は何なのか、垣間見ただけで本能がふるえあがる。あれこそ、この世に存在してはならないもの。

「次!」

 先生の声に、あわてて残りふたりにも同様に数珠を撃ちこんだ。それぞれ影がぬけ、その場におちる。

 祓われた三人は不格好に倒れたまま動かないので、私は構えたまま立ち尽くした。本当は殺してしまったんじゃないだろうか。エアガンを持つ腕が小刻みにふるえる。

 頭に手を置かれた。先生だ。

「よし、よくやった。なかなかやるじゃないか」

「……私、殺しちゃったの?」

「殺していない。憑き物を祓ってやっただけ。あいつらは気絶してる」

 それを聞いて、やっとエアガンを下ろすことができた。良かった。

「今は魔物の毒気にあたっているから、しばらく意識は戻らんだろう。結界を解いた頃に巡視にきた宿直が見つけるから、そこらへんに転がしておけ」

 三人を廊下の隅に横たえた時。

「そこにいるの、吉備太?」

「亨!?」

 会長が驚きの声を上げるのも無理ない。なんと階段の上がり口から佐々木亭が顔を出したのだから。硬直し青ざめる私たちに構わず、佐々木亭は息を上げて駆け寄ってくる。私と遠藤は手にしている凶器をあわてて背中に隠した。会長と乾は手ぶらだが、六道先生は袈裟のまま平然と迎える。

「ああ、みんな居たんだ。話は終わったの?」

「そ、そうっ! 亨はどしたの?」

 動揺が隠せない会長にフォローしようもない。しかし人柄だろうか、どう見てもあやしいのに、この太った副会長は私たちを気にする素振りすら見せなかった。

「そうそう。僕さ、パソ部で小林たちとパソコン直してたんだ。なんか調子悪くってさ、読み込まないわ飛ぶわで大変でさ。いろいろやってたらこんな時間になっちゃってさ」

「そうなんだ」

「でさ。小林たちがトイレに行ってからぜんぜん帰ってこなくてさ。ちょっと探しに来たんだけど、吉備太たちは見なかった?」

 私がさっき撃ちましたとも言えず、冷や汗まみれで首を横にふったとき、足下で局長がうなった。もうだめだ。全部言うしかない。

 しかし。

「あ、こんな所で寝てる! ああ、ひょっとして吉備太も今見つけたところだったのか。おいおい起きろって」

 佐々木亭はのん気に三人を揺さぶる脇から、六道先生が顔を出した。

「お前ら生徒だけで、こんな遅くまでいたのか。おおかた変な物が出て気絶したんだろ」

「おどかさないでよ、先生。お坊さんにそんなこと言われると、ホントにそんな感じがするけどさ。あ、僕はそういうのよくわかんないんだけどさ!」

 ふくよかな頬で笑う佐々木亭に、先生もそうかと笑う。

「あれ、佐々木……?」

 局長が顔をしかめてうなるのを、佐々木亭が明るく声をかけた。

「小林。よかった。グッモーニン」

「なあ、廊下……」

「廊下がどうしたのさ」

「……ドアある?」

「あるよ」

「うそ……。でもさっきドアがどこにもなくて」

 佐々木亭が六道先生を見上げ、先生はうなずいた。

「言ったろ、変な物見るって。限界までやってりゃ誰だって方向感覚もおかしくなる。宿直の先生からお茶でももらって、早く帰れ。俺たちも行くぞ」

「どこか行くとこだった?」

 困っている私たちを代表するように先生が、ちょっとなと答えた。

「悪いが、頼んでいいか。こっちはこれから皆で急ぎの用事を片付けに行くんだ」

 佐々木亭は笑って、肉付きのいい手を振る。

「いいよいいよ。こっちは僕がなんとかするからさ。ほら、みんなも起きたしさ」

「すまんな」

「はいよ、行ってらっしゃい」

 去り際に幼なじみ同士で笑いあい、私たちはその場を離れた。

 彼らがいなくなった頃、先生が解説してくれた。

「まれに、魔物に無縁な人間がいる。佐々木はそれだな。見えないどころか被害にも気づかないタイプだ」

 私は怪訝に思ったことを口にする。

「それって一番危険なんじゃないの?」

「逆。被害に気づかないほど免れているんだ。わかりやすく言うと、つねに最強の結界を張ってる感じか」

「じゃあ一番安全なんだ」

「そう。どんな妖術もあいつには効かないだろうし、一生憑かれることもない」

 隣で会長がほっと肩の力を抜いた。

「見たところ、かなり徳を積んでるヤツだな。でなきゃ、あそこまでのん気にしていない。吉備もいい友達を持ったな」

「はい」

 照れてうなずく顔は、どこか誇らしげに見えた。

「パソコンの調子が悪いのは、鬼憑きが近くにいるせいもある。ああいった輩は、なぜかパソコンとか電話なんかにも反応してな。ケイタイも突然切れたりする。離れたら機械の調子も戻るから、放っておけば直るさ」

 そういえば、そんなことがあったような気もする。夜、外でみんなといた時だ。いつだったかな。


 三階へとつづく階段は廊下よりも闇が深かったが、身体が覚えているので難なく上がっていけた。この地点で目的地まであと半分といったところ。

「あそこまで行くの面倒くせえんだよなあ。べつにそこらへんでもいいじゃん」

 遠藤のぼやきを聞きながら階段の踊り場を過ぎようとしたとき、足が動かなくなった。

「う、あ」

 全身がこわばり、せり上がる恐怖で息が詰まる。この先はだめだ。行ってはいけない。なにもかも投げ捨ててこの場から逃げたくなる感覚に、私は自分を抱きしめた。

「だいじょうぶ?」

 心配そうに覗きこんできた会長に、私は怖じ気づく本能をむりやり抑え、エアガンを握りしめてうなずいた。

 こういった感じは、鬼に反応しているんだと自分でも薄々感じていた。急に、それもこれほどまでに感じるということは。

「すぐ近くにいる。たぶん」

 みんなは視線を交わしてうなずきあうと、階段を上がる。上がりきれば左右に廊下が伸びていて、右に向かうと教室が四つ並んで、廊下が終わっているのだ。そこが目的地。

 階段を上がりきって右を見ると、私たちの位置から突き当たりまでの中間地点に、ひとつの影が立っていた。廊下の窓から月明かりが射し、その姿を鮮明に浮き上がらせていた。

「鬼女、だな」

 先生がつぶやいた。

 鬼に憑かれた彼女の振り乱した茶髪は白髪のように見え、制服の裂け方も以前に増してひどく、セーラーのスカーフは無くなって、なにやら胸元は真っ赤に染まっている。スカートは引きちぎったのかスリットのように裂け目が入り、足のあちこちには爪で掻いたような傷と出血が走っている。そして金色の瞳で冷たくさげすみ、かつ怒りをこめて私たちを見据えていた。

 対して私たちは、手前に乾と遠藤、後ろに六道先生が立ち、私と会長が間にはさまれた形でそれぞれ身構える。

「ヨコセ……ヨコセェェ……」

 鬼女は、くやしそうにうなりながら胸元をかきむしりだした。血なまぐさい匂いが鼻につんとくる。かきむしる手はすぐ血に染まり、勢いを増しながら声を張り上げた。

「ヨコセ、ヨコセ、ヨコセェ!」

「断る!!」

 会長が斬るように叫ぶと、胸を掻きむしる手が止まった。

「グゥルルガァァアアア!!」

 鬼女は咆吼した。一斉にあたりの闇がざわりとゆれて私たちを包む。闇の中に無数のちいさな金の目があらわれたので、私は悲鳴をあげそうになる。洞窟の中でコウモリに囲まれたらこんな感じだろうか。

「ネズミか」

 乾の言うとおり正体は何百匹ものドブネスミだった。小さくも鋭い牙を剥いて、私たちに襲いかかってくる。

「ふせろ!」

 六道先生の声に全員が身をかがめると、その上を棍が走った。続々と飛びかかってくるネズミたちをはじき飛ばしていく。

「雑魚にかまうな。来たぞ!」

 顔を上げると、散らされるネズミの間から、鬼女が四つ足でこちらに向かって走り出してくるのが見えた。

 遠藤がネズミを切り抜け、棍を木刀のように持つと、走りながら大きく振りかぶった。しかし兜割りには至らず、天井近くまで飛び上がった鬼女に、後頭部を蹴りつけられて転ぶ。

 鬼女はそのままこちらに向かってきた。目を見開き口もおおきく開け、細くするどい牙をぞろりと見せて。

「ヨコセ!」

「下がってください」

 乾が会長の前に立ち、ナックルをはめて拳をつくった。私も乾の後ろに立ってエアガンを構えて迎えうつ。

 鬼女は乾の首あたりをめがけて飛び込んできた。乾は右拳をうちこむ。拳は鬼女の口に当たり、血と一緒に牙もいくつか飛んだ。

 口を赤く染めた鬼女と、右手を赤く染めた乾は、いったん引く。鬼女は痛がるようすも血をぬぐうこともなく、べろりと舐めて笑う。私はたのしそうな鬼女に戦慄した。

「ガアアア!!」

「うわ!?」

 鬼女が血しぶきを飛ばしながら吠えた。とたんにネズミが乾に一斉攻撃した。乾は頭の先からつま先までちいさな獣にたかられ、身動きが取れなくなってしまった。

「乾!」

 会長が、鞘がついたままのナイフでネズミをはらうが、次々押し寄せるネズミに埒があかない。遠藤もこっちに向かおうとしたが、ネズミの一群に足止めを食らっている。とうとう乾はうずくまってしまい、たかる獣の毛皮に血がにじみ出してきた。

「グッグッグッグッ」

 鬼女はうれしそうに笑う。

 私はその笑いに怒りを感じて鬼女をにらんだ。

 楽しいか。貴子を操ったり、会長に襲いかかるのがそんなに楽しいか。きっとこいつは笑っていたんだ。今みたく翻弄する私たちを、影で見て笑っていたんだ。私の大事なものが壊されるのをこんなふうに笑っていたんだ。

 許さない。

 私は銃口を上げた。足下には小さな生き物が動き回っている。腰や胸、三つ編みを伝って頭にまで駆け上ってきていたが、嫌悪すら頭から消えた。照準を定める。

 私はこれ以上、誰にも。

「憑かせない!」

 引き金にかかる指に力を込め、一気に引いた。

 数珠は鬼女の肩をかすめたが、それでも効果は絶大だった。

「ギャイン!」

 鬼女の悲鳴と同時にちいさな金の目は闇に沈んだ。妖術が解けたネズミたちは一斉にあたりかまわず逃げ出した。きいきい鳴きながら波がひくように立ち消え、あとにはうずくまった乾と会長と、ぽかんとしている遠藤が残されただけ。

 ネズミの撤退に意気を呑まれていると、鬼女が襲いかかってきた。目を見開き、血だらけの口をくいしばるその顔はまさに般若だ。私はおそろしさのあまり足がすくむ。

「取井!」

 会長が私をかばうように立ち、サバイバルナイフを鞘走る。

 鬼女は期待に満ちた目で笑い、歓喜の声を上げ、会長に手をのばした。

「ヨコセェェェ!!」

 手が届く寸前、私の右耳を、ぶん、という音と共に風が走った。鬼女は棍に鼻を砕かれ、そのまま後ろに吹っ飛んでいく。

「憑かせないっつったろ」

 六道先生が私の右肩の上から棍を引いた。一振させて、棍についた血糊を廊下に散らす。

「先生」

 会長が安堵の声をあげた。先生は鬼女から目を離さない。

「取井、行って全弾撃ちこめ。吉備は弱ったところで仕留める。いいな、のど仏だぞ」

 私たちはうなずいた。

 鬼女はごろごろ転がり、目的地だった教室の入り口にぶつかった。私は駆けつけて側に立つと、トリガーを引いた。珠は胸に当たり、鬼女は身体をびくりとさせて頭をあげた。鼻と口をくだかれた顔は血であふれ、床にしたたり落ちた。

 会長を襲い、貴子を操って豹変させ、人面犬で私に死ぬ思いをさせた鬼憑き。何度も怖い思いをした。吉備家で起こった事件を聞いている間、怖くて、せつなくて、悲しくてたまらなかった。もう二度と、そんなことが起こらないために、誰もそんな思いをしないために。

 これで終わりにする。

 最後の抵抗か、鬼女が私に向かって爪をふりかざした。

「ガアウ!」

「これで終わり!」

 私は強くトリガーを引いた。

 珠は鬼女の眉間に命中した。

「グギャァァァァァァ!!」

 鬼女は断末魔をあげ、引き戸に背中を押しつける。背中から影が抜けて戸を滑るように登りだした。

「逃げるな!」

 影に向かって何度もトリガーを引いたが、それでも影は戸に溶けるように消えた。

 しまった、逃がした。そう思った。


 力なくエアガンを下ろしたとき、会長が走ってきた。

「取井、どうなった?」

 聞かれても頭を左右にふり、残骸のような干からびた遺体を見つめるだけ。じき遠藤が、遅れて乾と六道先生も追いついた。

「取井。鬼は」

 先生に問われて、私は泣きそうになりながら引き戸を指した。一生に一度のチャンスだったかもしれないのに、自分のミスで逃がしてしまった。皆に責められる覚悟でうつむく。

「でかした!」

 笑顔の先生に肩を叩かれて、私はぽかんと見返した。

 先生は遺体に手を合わせると、戸からよけて寝かせる。

「入り口越しに教室に逃げこんだ。おかげで奴は完全に袋のネズミだ。ここからは逃げられないし、俺が逃がさない。あとは虎の穴に入って倒すだけだ。な、かんたんだろう」

「かんたんじゃねえよ」

 つぶやく遠藤に、先生は苦笑した。

「前に言ったとおり、俺はフォローしかしないからな。ここまでやってみて、なんとなくわかったろ。この要領でいけば、消すまでいかなくても封印一歩手前まではいけるはずだ。わかったら、もう一度準備しろ」

 私たちはそれぞれうなずき、各自武器を確認して呼吸を整える。本当はそこに入りたくなかった。入れば死ぬと勘は警告している。

 だけどやるんだ。会長に憑かせないために。貴子のように誰も操られないために。

 私は新しいマガジンを装填し、セット完了の音で気合いを入れた。

「突入順は乾、遠藤、取井、吉備。俺は最後につく。がんばれよ」

「はい」

 私たちは声をそろえて返事をした。

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