恋と勉強、ときどき不良。(仮)

美紅(蒼)

プロローグ

 ――――色彩中学校。

 特別何かに秀でた素晴らしい学校というわけでもなく、ごく一般的な公立の中学校だ。良くも悪くも普通の中学校である。

 今は放課後で、外では部活に励む生徒たちの姿が数多く見られた。

 そんな中、とある教室で一人の男子生徒――――藤堂悠雅とうどうゆうがと担任の佐藤は進路の話をしていた。

 佐藤は最初口ごもっていたが、やがて決意を固め、口を開いた。


「あー……その……藤堂」

「はい」

「お前は真面目だし、積極的にボランティアにも参加して、人当たりも悪くない」

「ありがとうございます」


 佐藤は真面目に頭を下げる目の前の悠雅を見て、再び気まずそうにしながら、ハッキリと言い放った。


「うん、ただ――――お前はバカだ」

「そうですか?」


 キョトンとした表情でそういう悠雅に、佐藤は眉間を指で軽く揉んだ。


「いや、お前は授業も真面目に受けてるし、宿題もちゃんとやって来てるからこそ、非常に言いにくいんだが……テストの点は悲惨だぞ」

「またまたぁ。この前、初めて英語で30点とったんですよ!」

「本当に辛い……」


 非常に深刻だった。


「あのな? お前が30点とった英語のテストの平均点は80点だぞ」

「みんな天才ですか!?」

「お前が低すぎるんだよ……」


 佐藤は頭が痛くなった。。


「まあいい……んで、お前さんの進路は進学だったな?」

「あ、はい」

「ハッキリ言うぞ。今のお前で進学できる高校なんざほぼない」

「ええ!? そ、そんなぁ……」


 悠雅は本気で驚き、それと同時に落ち込んだ。


「よく聞け。俺はほぼないと言ったんだ。少ないが、一応お前でも行ける高校はある」

「そ、それはどこですか!?」

「あー……ここらへんじゃ『六色ろくしき』って呼ばれてる六つの高校だな」

「六色? って、六つもあるんですか!? 全然少なくないじゃないですかー!」


 途端に笑顔になり、悠雅は軽く佐藤を叩く。

 軽く叩かれているはずなのに、尋常じゃない威力に佐藤は悲鳴を上げた。


「痛い痛い痛い痛い! おい、力加減をどうにかしろ!」

「え? これでも最低限手加減してるつもりですが……」

「うん、もういいや……んで、お前は多いって言ったが、ここら辺は元々高校の数が尋常じゃないくらいに多い。有名どころで言えば聖銀せいぎん高校や金剛こんごう高校とかだな」

「あ、その二つは俺も知ってますよ」

「そうか。んで、他にも進学校や農高、工業高校といろいろあるんだが……俺の言った『六色』ってのは、簡単に言えば不良共の集まる高校のことだ」

「はぁ」

赤池あかいけ青蘭せいらん黄羅きら緑風みどりかぜ白夜びゃくや黒王こくおうの六つだ。青蘭は女子高だから、実質お前が選べるのは五つだな」

「なるほど」

「……んで、さっきも言ったが、ここは驚くほど治安の悪い学校だ。正直、生徒を一人でもこの中のどこかに送り出したいとは思わない。まだ県外で似たような不良共の多い高校を探した方がいいだろう。それ以上に今言った六つはヤバいからな」

「ふむふむ」

「幸いうちの学校からは、このどれかに進学するヤツはいない……お前を除けばな」

「はあ。まあ俺は普通に勉強するために学校に行くので、そのどこかでいいですよ」

「……そういうと思ったよ。お前じゃなければ、全力で止めてたがな」

「え? それ、俺ならどうでもいいってことですか?」

「チガウチガウ。お前なら不良なんて怖くないだろ?」

「そうですね」

「ったく……本当なら怖がって欲しいんだが、お前の家は特殊だからなぁ……それに、県外にはいきたくないんだろ?」

「そうですね。移動が面倒なんで」

「……こういっちゃなんだが、お前の家お金あるのにな」

「それとこれとは話は別ですよ」


 悠雅がそういうと、佐藤は苦笑いを浮かべた。


「まあいい。今日の所、話は終わりだ。それじゃあ藤堂は進学ってことで、今言った高校の中からどれか一つ選んでこい。ほぼ確実に、試験は名前さえ書けば受かるからよ」

「はい! 選べる高校は、赤味噌、青汁、き……何でしたっけ?」

「それ以前に全部間違ってるよ! はぁ……今から名前を紙に書いてやるから、ちょっと待ってろ」


 ――――藤堂悠雅は、佐藤に高校の名前を書いてもらった紙を受け取ると、そのまま帰宅するのだった。

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