つかずはなれず、きみのゆめ
羽黒 彗
第1話 きみとゆめ
君が、「いつか絶対に離れる時が来るのが嫌」と言ったから、
僕たちは「ふたり」にならなかった。
僕と彼女はいつも一緒にいた。同級生も先輩も後輩も僕たちを恋人同士なのだと確信していたほどだった。彼女は天真爛漫、愛想も良く、屈託のない笑顔で周囲の人々を惹き込む天才であった。一方どこか危なっかしい精神を持っていたり、一人自由に趣味を楽しむのが最も好きだったようではあるが、可愛げのある後輩、放っておけない同級生、親しみやすい先輩として我が校に君臨していた。しかし実のところ彼女は男に対する警戒心が異常なほどあり、同性に見せる半分も本当の感情を見せることはなく、いつも偽りの表情を適宜顔に貼り付けていた。なぜ、僕がそんな彼女に懐かれたのか、思い当たる理由は全く無い。二人でSNSで漫才のような会話を繰り広げたりだとか、委員会活動で早朝から深夜まで激務を乗り越えたりだとか、毎日顔を突き合わすほどではない生活が数年続くなか、彼女は他人を見る時より輝いた眼を僕に惜しみもなく向けては僕が軽口を叩いて構いに行くのを期待しているとはっきり見て取れるようになっていた。
利益が一致していれば二人で遠出することもあった頃、彼女はこんな独り言をネットの海に放り投げた。
「どんなに好きでもいつかその気持ちが無くなることも、無くならずに済んでも命に終わりはあっていつか必ず別れる時が来ることも誰もが知っているはずなのにどうして好きな人と付き合おうと思えるのか」
「私は絶対に好きな人を嫌いになる瞬間を、亡くす瞬間を迎えたくない、いつか絶対に離れる時が来るのは嫌、付き合って嫌いになるくらいなら始まりを無くして終わりを無くしたい」
心底引いた。同時に呪われた。彼女にそこまで思い悩ませるほどの特定の相手がいるのかは分からない。しかし他の男とは一緒に出掛けることに慎重になりすぎであるのに僕を全力で軽々しい文面でもって誘うような彼女が最も親しんでいる男は自分だと自負している。……いや、そういえば彼女は中学までずっと寄り添い合っていた女子がいるとか言っていた気がする。そこに恋愛感情があったかは聞いていないが、死んでも守りたい相手だったとかなんとかとか。待て、邪推も良くない、だがこの幼稚で世の恋愛を直視できていない愛の夢幻を彼女に抱かせたのは――
僕でなくてはいけない。
ならば、世話焼きのくせに甘えたで夢見がちの永遠の子供のような彼女のこの夢幻を叶えてやるのが僕の使命か。
この先彼女が自分の夢を放棄してどれほど希おうとも、自分が男を相手にできることをにおい立たせようとも、僕は決して応じてはならない。彼女の夢を僕が守り抜き叶えるのだ。
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