12月12日
「来てくれてありがとう。でも……娘は、いま、ちょっと」
「分かりました。これ、あとで渡しておいてくれませんか」
病室の前で、不安そうに壁にもたれている日岡さんの母親が、僕を引き留めた。
病室の扉の向こうから、時折苦しそうな声が聞こえてくる。安静にしていれば収まる、発作のようなものらしい。
彼女は自分の病気について話したがらなかった。だから、母親にも詳しく事情は聞かないことにして、僕は彼女が以前に好きだと言っていたマキシマムなんとかの新曲CDだけ渡しておいた。
今回の取り立てでは、いちおうノルマぶんは返せたので、余ったお金で買ったのだ。日岡さんには「ただでさえ自分のことで大変なのに、無駄遣いするのね」なんて怒られてしまうかもしれない。
「ああ、家にいっぱいあるわ、この人たちのCD」
「よく話してくれます。聞くとテンションが上がって、頭を振り回したくなるとか」
「ふふ。そんなことして血圧が上がったら、ホントに死んじゃうわね」
日岡さんがブラックジョークを好きなのは、母親譲りらしかった。
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