最終話 コンビニよ永遠なれ

 日が昇ると同時に準備を進める。吐く息は真っ白で、手もかじかんで看板を取り付けるのも一苦労だ。季節はすっかり冬になり、あと一週間ほどで今年も終わりを迎える時期になっていた。


「うぃぃぃ、寒ぃよぉぉ」

「べんりくん。掃き掃除は終わりましたよって、まだ看板出してないんですか?」


 ぶるぶると震えている俺のことを呆れた様子で見ながらローリンがやってくる。しょうがないだろ、この看板けっこう重いんだよ。まあ、おまえにとっては羽毛のように軽く感じるかもしれないがな。


「て言うか、ソフィリーナとぽっぴんはなにしてんだよ?」

「二人ならちゃんと起きて中の準備をしてますよ」


 なんだと? 店内を覗くと奥のスペースで炬燵に入りお茶を啜っている二人の姿が見えた。俺は店内に駆け込むと二人の元へ行き怒りを押し殺しながら尋ねる。


「君達はなにをしているのかな?」

「なにって? 開店準備に決まってるじゃない。ねえ、ぽっぴん?」

「そうですよ。私とソフィリーナさんは、こうやって体を温めておいてすぐにでもお客様対応をできるようにしているんです」


 ほぉほぉほぉ、なるほどねぇ。さすが女神様と大賢者様の考えることは違いますね。凡人の私では思いつかないことを平気でやってのける。そこに痺れる……。


「憧れるかあああああああっ! おらああああっ、炬燵から出ろやこの怠け者どもがあああああっ!」

「ちょっ、なにすんのよべんりくんっ! 風邪ひいたらどうすんのよっ! 寒いから外に出たくないのよっ!」


 てめえ、最後完全に本音を言ってるじゃねえかよ。


 ちゃぶ台返しを喰らわし炬燵布団を剥ぎ取ると、ソフィリーナとぽっぴんはバックヤードへと駆け込み布団に包まってぶーぶーと文句を言っていた。

 くそったれめ、おかげで俺はめちゃめちゃ汗かいたんだけど、マジでムカつくわ。


 さて、年末も差し迫ったこの時期ではあるが、俺達は地上での新店舗開店の準備をしている真っ最中であった。

 地下のコンビニエンスストアはなくなってしまったので、一からこの異世界でコンビニ経営をするべく、俺達はこの半年間色々と準備を進めていた。店くらいすぐに構えさせてやるとオルデリミーナが言ってくれたのだが、それでは意味がないと俺はそれを丁重に断り。資金調達から商品の買い入れ、そして店を開く場所を探して回った。


 そしてようやく、開店を明日に控えることができたのだ。


「べんりー、おはよー」

「おはようメームちゃん。寒くなかった?」

「ちょっとだけ、いぬのけがわはそこそこあったかい……こたつは?」


 獣王に跨ったメームちゃんがやってくると、炬燵がないことに気が付いて不満そうな顔になる。メームちゃんに催促されたら断れないので再び炬燵を設置すると、すぐに奥からソフィリーナとぽっぴんが出てきて潜り込んできた。

 なんなんだよこいつら……。まあいいや、みんな集まったしそろそろ朝食にしますか。


 皆そろって炬燵で朝食、メームちゃんは俺の膝の上だ。A25とマーク2はすっかり日本食もマスターして、白米にお味噌汁、焼鮭と焼き海苔と目玉焼き、そして自家製納豆などなど、朝からてんこ盛りだ。


「めーむこのねばねばしたのきらいー」

「えー、納豆美味しいのになぁ」

「やだー、たまごたべるー。そいそーすとってそふぃりーな」

「女神様を顎で使うんじゃないわよまったく。はい、零すんじゃないわよ」

「私は目玉焼きは塩派です。ソフィリーナさん、塩を取ってください」

「ぽっぴん、あんたまでわたしを使うんじゃないわよ」

「しょうがないだろ、おまえが一番調味料に近いんだから」

「皆さん、朝ご飯の時くらい静かに食べれないんですかっ!」

「あんたの声が一番でかいわよローリン」


 とまあ、朝からやいのやいのと騒がしい事この上ないのだが、これがいつも通りの俺達だ。


 朝食を終えてお茶を飲みながら一息吐く。俺は店内の棚に並ぶ商品を見渡すと、やっとここまで来ることができたと感慨深い気持ちになった。商品の種類は前のコンビニに比べれば少ないし、パワビタンのようなチートアイテムもない。それでも、ダンジョンに潜る冒険者達の助けになればと考えて取り揃えたものばかりだ。


「なにをしみじみと眺めてるの?」


 ソフィリーナが意地悪な表情で「ちょっと涙目になってんじゃない?」と言いながら、俺のことを見てくる。べつに泣いてねえよ。ちょっと、これまでのことを思い出してただけだ。


 色々なことがあった。この異世界に来てからたった数年だけれども、もう何年もここで暮らしていた様な気分になる。

 そしてこれからも、まだまだ長い人生、この先もこいつらと一緒に、この仲間達と一緒に続いて行く生活だ。俺が存在し続ける限り、いや、その後もずっとこのコンビニが皆の生活の一部となり、あり続けてくれればいいと本気で願った。


「さーて、そんじゃあもう一働きしますかっ!」


 炬燵から出て立ち上がり伸びをすると皆もそれに続いた。


「私は品出しを済ませちゃいますね」

「ああ、頼んだよローリン」

「べんり、めーむはなにをすればいい?」

「そうだな。獣王と一緒にクリスマスツリーの飾りつけをして貰おうかな」

「わかった。いくよー、いぬー」

「せめて獣王って呼んでくださいわん」


 手分けして開店準備を進めるのだが、奥からぽっぴんがなにやら大きな箱のようなものを持って出てきた。さっきからいないと思ってたらこいつ、なにを発掘してきたんだ?

 ぽっぴんはよろよろとしながらそれを会計台の上に置くと俺に尋ねてくる。


「べんりさん。このレトロなPCはなんですか? こんなもの持ってましたっけ? なんかIBM5100って書いてあるんですけど?」


 俺とソフィリーナは顔を見合わせると小さく笑い同時に答えた。



「神様だよ」

「神様よ」







 異世界ダンジョンにコンビニごと転移したら意外に繁盛した。    完

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異世界ダンジョンにコンビニごと転移したら意外に繁盛した あぼのん @abonon

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