第十二章 そして伝説へ~ 裏ダンジョン編 ~

第二百四十八話 ボスを倒したら、当然あるでしょ裏の世界①

 目の前に広がるのは見渡す限り何もない荒野。ペンペン草一つ生えていない大地を、西部劇でよく見るあれがコロコロと転がって行った。

 頭上には照りつける太陽、この荒れ果てた大地には陽射しを避けるような木陰もなく、水を得ることもできない。俺とソフィリーナはどこまでも続く地獄を二人で進み続けていた。


「くっそがぁ。どこまで行ってもなにもないじゃねえかよぉ。本当にこれがあの神界なのかよ?」

「ええそうよ。これは全部、全能神が見せている仮想現実の世界。私達の脳はそれを本物だと認識しているけれども、現実には存在しない世界よ」

「うぅぅぅぅん。もう難しくてわけがわからなくなってきたぞ。認識した時点でそれは現実になるんじゃないのかよ? でもそれは仮想の物であって実際には存在しないって、言ってることが矛盾してないか?」


 ソフィリーナは、そのとおりねと困った表情で笑うのだが、それもまた一つの世界であると言う。


 基本、人は他人の認識したものを同じように認識することはできない。けれど別の視点からそれを観測することはできる。つまりその、認識の外側に常に身を置くことができ、全てを観測できる能力を持てば、その能力を有するモノは神たりうることができるのだ。


「ますますわからんわ。まあでも、俺はその観測者、つまりは全能神の認識の外側に居るから、全てを変えることができるってことなのか?」

「たぶんね。時の歯車の影響で、べんりくんの体になにが起きたのか、それをドラゴンの力でどれほどまでに強化できたのかはわらないけれど。実際べんりくんは、何度も死と蘇り、そして時間超越を繰り返して来た。これはもう、神をも超えた能力と言っても差し支えないわ」

「そんなもんなのかね?」

「そんなもんなのよ」


 そ言うソフィリーナの顔に笑みはなく、酷く不安気で悲しげな表情に見えた。

 よくわからないが俺には、手から火とか氷とか雷とかビームを出せるほうが、よっぽどすごいと思うんだけどね。


 それにしても酷く喉が渇いた。水が飲みたい。こんな炎天下の中を水分補給もせずに歩き続けるなんて、はっきり言って夏コミでもこんなに辛くはないぞ。ソフィリーナは平気なのだろうか? ふと俺はソフィリーナの方を見るのだがやはり暑いのだろう。少し顔が赤いような気がする。そしてうなじを流れる汗が妙に色っぽくて、なんだか無性に……。


「なあ、ソフィリーナ?」

「なによ? 暑くて返事をするのも面倒なんだから無駄に話しかけてこないでよね」

「いやなんか俺、おまえのこと好きかもしれない」


 そう言った途端、ソフィリーナはピタリと足を止めて惚けた表情になり俺を見つめている。


 あ、やべえ。なんか暑さの所為でわけがわからず、変なこと言っちまったどうしよう。


 また怒り出すと思って身構えるのだが、ソフィリーナは真っ赤になりプルプルと震えているようだった。

 こいつの前では俺はいつも自然体でいられた。と言うか、我慢しなくちゃいけない時も、俺は男なんだからしっかりしなくちゃいけないと思うんだけど、こいつの前ではどうしても甘えてしまうと言うか、本音がでてしまう。それはきっと、俺がこいつのことを、こいつと居ると安心できるからなんだと思う。それはつまり、俺はこいつのことが好きで、こいつとずっと一緒に居たいと思える存在ってことなんじゃないのか?


 ソフィリーナは少し俯きながら上目使いになり俺に聞いてくる。


「じゃ、じゃあ。メイムノームはどうするのよ?」

「は? なにが?」

「べんりくんはあの子の婚約者でしょ? でも、その、わ、私の事が、す、すすす、好きってんならそれはどうするのよ?」

「いやそれはまた別の話で、メームちゃんのことも好きだし」

「は?」


 そう、俺はメームちゃんと一緒に居ると、とても癒されるのだ。彼女はまさしく俺の天使。俺はメームちゃんの為ならこの命を投げ出しても構わないと思っている。


「じゃ……じゃ、じゃあっ! ローリンとぽっぴんは?」

「ふむ。まあ、客観的に見て大好きだ」

「ちょっと待ていっ! なんでその二人には大を付けたのよっ!」

「べつに意味はないよぉ。え、なに? もしかして嫉妬してんの? あなたは嫉妬の女神様ですかあ? ソフィリーナさ~んっ?」

「うるせええええええっ!」


 ソフィリーナに張り手をお見舞いされた俺は、しばらく鼻血を流しながら歩き続けることになるのであった。


 そして歩き続けること半日余り。もうクタクタになりこれ以上は無理だと思いはじめたところで、視線の先に灰色の塔の様なものが見えてきた。


「なんだあれ? スカイツリーか? まさか、ここは実は核戦争で滅んだ地球で、未来の日本だったなんていうオチじゃねえだろうな?」

「なに言ってんのよ。そんな円盤のジャケットでネタバレするような映画と同じ展開なわけがないでしょ。あれが、全能神の居る塔よ」

「なあ、全能神って一体誰なんだよ? クロノスフィアみたいなロボットなのか?」

「行けばわかるわよ。きっと、想像もしてなかったような奴ね。もしかしたら、べんりくんのお父さんかもしれないわ。或いはコンビニの店長」

「んなわけねえだろ」



 そんな感じでくだらない会話をしながら、俺達は裏の世界のラスボスの待つダンジョン塔へと向かうのであった。




 つづく。

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