第二百二十四話 我が命、燃えて尽きて灰となりて②

「くぅ、メルルシャイム大丈夫ですか?」

「僕達を相手にここまでやるとは、なんて奴なのですか」


 双子天使は苦戦を強いられていた。メルルシャイムとミルルフィアムの実力は、先程の魔星達を蹴散らした戦いぶりからわかっている。しかし、そんな二人を相手に余裕の表情を浮かべ、まだまだ本気を出していない様子のレイドエルシュナであった。


「どうしたガキども、それで全力かあ? じゃあ次は俺の番だな。ちっとばかし強めにいくぞっ!」


 レイドエルシュナが拳を振り抜いた瞬間、拳圧が空を火走りメルルシャイムを吹き飛ばす。攻撃を見切ることができず、防御できなかったメルルシャイムは地面を転がると仰向けに倒れたまま動かなかった。

 そこでレイドエルシュナに攻撃の後の隙が生まれる。間髪入れずにその隙を突いたと思ったミルルフィアムであったが、攻撃はレイドエルシュナには届かなかった。


「残念だったなガキ天使。俺の纏う炎の気を、てめえの拳では貫くことはできなかったみてえだ」


 ニヤリと笑うとレイドエルシュナの体の周りを黒い炎の膜が揺らいだ。それがミルルフィアムの拳を受け止め焼く。拳を焼かれたミルルフィアムは苦悶の表情を浮かべると後方へと飛び退き距離を取るのであった。


「ちっ、まるで荒れ狂う火山の様な奴ですね……。メルルシャイムっ! いつまで寝ているのですかっ!」


 ミルルフィアムが怒鳴ると、メルルシャイムはむくりと起き上がった。顔を上げるとタラリと鼻血を垂らしている。それを袖口でゴシゴシと拭うと不機嫌な様子で返事をした。


「可愛い僕の顔を殴るなんて許せない奴です」


 まだまだ余裕と言った感じに聞こえるが、正直二人のダメージは見るからに深い。ミルルフィアムは右拳を焼かれて、あれはもう使い物にならないだろう。そしてメルルシャイムは余裕の表情を浮かべてはいるが膝が笑っている。はっきり言って立っているのもやっとといった状態だ。

 当然そんな二人のダメージをレイドエルシュナも見逃さない。口元に笑みを浮かべながら歩き出すと、その足はローリンの方へと向かった。


「ガキ共二人じゃ少々役不足だ。おいてめえ、おまえからはもっと大きな力を感じる。あの時の地下でもそうだった。おまえとならいい勝負ができそうだ。もう一度俺と戦え」


 ローリンのことを指差しながら歩み寄ってくるレイドエルシュナであったが、その歩みがピタリと止まった。レイドエルシュナは足元を見ると忌々しげに顔を歪め言い放つ。


「おい……バルバトス……。なんのつもりだてめえ?」


 地面に這いつくばるバルバトスがレイドエルシュナの足首を掴んで離さない。そのままバルバトスは、震える手で足にしがみつき、腰にしがみつき、立ち上がろうとする。


「レ、レイドエルシュナ……。おまえの、竜の呪いを受ければ……どんな、ど、どんな奴にも負けねえって、最強の力を手に入れることができると言うから。俺達は悪魔であることを捨てたのにっ! 許さんぞきさまあああっ!」


 バルバトスは真っ赤な涙を流しながらレイドエルシュナの体を這いあがって行く。すると、レイドエルシュナはバルバトスの首を右手で掴みあげると思いっきり握りしめた。


 鈍い音が鳴り響くとバルバトスは詰まった声を漏らし、2~3度ビクンビクンと身体を震わして動かなくなった。


「知らねえよ。むしろ俺の力を分けてやったってのに、その程度にしかなれなかったことの方が許せねえな」


 冷ややかな目でバルバトスのことを見つめるレイドエルシュナの右手から炎が漏れ出すと、バルバトスの体を包み込みあっと言う間に焼きつくし灰にするのであった。


 敵とはいえあまりにも惨い最期に俺はレイドエルシュナに怒りを覚える。


「て……め」


 踏み出そうとした瞬間、俺の前に出てきたのはローリンであった。


「レイドエルシュナと言いましたね。いいでしょう、相手になってさしあげます」

「おいちょっと待てローリン。あいつは俺がぶっ飛ばす。もう我慢ならねえ、あいつの言ってること全てが俺には我慢できねえっ!」


 俺はローリンの肩を掴み振り向かせようとするのだが、ローリンはそれを頑なに拒む。


「べんりくんは下がっていてください。奴の指名はこの私です」

「うっせえっ! そんなのは関係ねえ。元々は俺とクリューシュが始めた戦いだ、横入りしてんじゃねえよっ!」


 もう知ったこっちゃない。こいつの態度も頭にくる。俺に腹を立てているのはわかったけど、俺にだって俺の事情があるんだ。決意があるんだ。あれもこれも、なんでもかんでも万人が納得できる答えがあるわけじゃねえんだ。


 そんな俺達のことを見て呆れた様子でクリューシュが仲裁に入って来た。


「やめろ二人とも、見苦しいぞ。こんな時に痴話喧嘩などしている場合かっ!」

「はあ? 別に喧嘩なんてしていませんけど? なんですかあなた? 新顔のくせになに正妻面しているんですか? あなたべんりくんのなんなんですか?」


 え? ローリンさん? なんか絡み方がおかしくないですか?


 更にぽっぴんが介入してくるので、事態はめんどくさいことになる。


「そうでいそうでいっ! 私とローリンさんはべんりさんとそれはもう、おまえなんかとは比べものにならないくらい一緒の時間を過ごしてきたんでいっ! 身の程をわきまえろってんだ。大体おめえ、クリスタルドラゴンだって言うならおまえが火竜と戦ったらどうなんでいっ!」


 そのぽっぴんの突っ込みに、大声をあげて笑ったのはレイドエルシュナであった。


「はああはっはっははあああっ! 無理だなっ! クリューシュナには戦う力なんて残っちゃいねえ。俺がそれを奪ったんだからな。そいつの身体には、目には見えない無数の傷がある、そんな状態でそこの男に竜の呪いをかけたんだ。もう力なんてカスほども残っちゃいないさ」


 その言葉にクリューシュは目を伏せて唇を噛む。それが、レイドエルシュナの言っていることが真実であると物語っていた。


「さあて、まあどっちでもいいさ。なんなら二人同時にかかってくるか?」



『ああ、そうさせてもらおう』



 その瞬間、レイドエルシュナに対して攻撃をしかけたのは、アモンとバエルの二人であった。




 つづく。

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