第二百二十五話 我が命、燃えて尽きて灰となりて③

 アモンとバエルの拳を両手で受け止めるレイドエルシュナ。怒りを押し殺すよな表情で二人を交互に睨むとゆっくりと口を開いた。


「どういうつもりだてめえら?」


 レイドエルシュナの問いに淡々とした口調で答えたのはアモンであった。


「どういうつもりだと? ふっ……いつから俺達がきさまの味方だと勘違いしていた? きさまと行動を共にしていたのは、神という共通の敵がいたからにすぎないっ! だが、神の前に倒すべきはきさまだと判断したまでだっ!」


 突如仲間割れを始めた三人を前に俺はどうするべきか考える。今は事の成り行きを見守るべきなのか。それともどちらかの側につくべきなのか。迷いながらクリューシュの方へ目配せをするとゆっくりと首を振っていた。


 よし、今は静観を決め込もう。あいつらが戦って消耗した所で一網打尽にするって手もあるしな。


 ローリンも同じ考えのようで動く素振りはない。双子天使たちはこの隙に、体力の回復を図ろうと距離を取っていた。



「なるほどな……。バエル、アモン。腐っても悪魔ってことか。だったらこの場でおめえらは灰にしてやるぜっ! 元々神とやり合うのにてめえらの力なんか不要だったんだ。それを、てめえらが神々と互角に戦える力をと懇願するから、竜力転身の力をくれてやったんだよっ!」


 その瞬間、レイドエルシュナに握られているアモンとバエルの拳から炎があがった。


「うおおおおおおおっ! イーヴィル・レーザーっ!」

「デモニック・デストラクションっ!」


 拳を焼かれながらも二人は必殺技を繰り出し、レイドエルシュナはそれを受け止める。

 レイドエルシュナの炎と二人の悪魔の必殺技が押し合う形となり、その場には凄まじい熱気と衝撃波が渦巻いていた。


「うおおおおおおっ! アモンっ、全力でやれっ!」

「言われなくてもやっているっ! 悪魔達の復権の為に俺はこの命を燃やしてでもっ!」


 二人は竜力転身を使ってはいなかった。これは、バルバトスがやられたことへの復讐なのだろうか。レイドエルシュナから与えられた力には頼らず、純粋に悪魔としてその怒りをぶつけているように俺には感じた。

 そんな二人を見てレイドエルシュナは笑う。戦うことがこれ以上にないくらい楽しい。そんな風に笑っているように見えた。


「はははははははああっ! 復讐かっ! 悪魔の癖に情深いものじゃないか?」

「ぬかせえっ! 復讐などではないっ、これは矜持プライドだっ! 俺は悪魔だ。神にも、ドラゴンにも、人間にも恐れられる存在っ! それが悪魔なのだあああっ!」

「くくくく、ははは、あああっははははっ! そういう台詞はな。実力の伴わねえ奴が言っても、負け犬の遠吠えにしかならねえんだよっ! 死ね、悪魔ども。地獄の業火をも焼き尽くす、竜の烈火を喰らうがいいっ!」


 レイドエルシュナが二人の拳を離し距離を取るとバエルが叫んだ。


「いかんっ! 避けろアモンっ!」



―― ドラゴニック・ボルカノンっ! ――



 両拳を合わせるように前に突き出したレイドエルシュナの前に、直径2メートルほどの火球が生み出されると、凄まじいスピードでアモンに向かって放たれた。

 アモンはそれを回避せず正面から受け止めようとする。しかし、あれは、生身で受け止められるほど生易しいものじゃないとその場にいた誰もがわかっていた。あれは、あの火球はエネルギーの塊だ。レイドエルシュナ火竜の生み出した、全ての物を焼きつくし灰さえ残さない一撃。


 アモンが全身全霊を籠めた拳を突きだす。火球を押し戻そうと全エネルギーを一点集中、拳に注ぎ込むのだが、火球の熱がアモンの拳を焼き、腕を焼き、身体を焼く。アモンは苦悶の表情を浮かべ、呻き声を上げながらも火球を押し返し砕こうと拳を突き出し続けた。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!」


 声を上げたその瞬間、アモンの拳を押し退け割って入り、火球を両腕で抱きかかえ押し返したのはバエルであった。


「なっ!? なにをしているのだバエルっ!」

「うおおおおおっ! アモンっ! おまえは生き延びろ、生き延びて他の悪魔達をまとめあげ、必ずや神を竜を根絶やしにするのだっ! 我々を天上界から追放し、魔界さえも奪った者達に必ず復讐を遂げろおおおおっ!」



―― 竜力転身っ! ――



 バエルは竜力転身をし、最後の力を振り絞ると火球を抱え込んだまま空へと舞いあがり。そして姿が雲の向こうへ消え、遥か上空で大爆発が起こるのであった。



 空を見上げながらアモンは茫然としていた。全身に火傷を負い満身創痍の状態でも膝をつかず、震える足で大地を踏みしめ、バエルが星となった空をじっと見上げ続けていた。


「くくく、残念だったなアモン。竜力転身を使っても、てめえらは俺に届かねえ。それで神に勝つつもりか? 無駄だ諦めろ、もうこの先、悪魔おまえらの時代はこねえ。ここからの聖戦は竜族おれたちと神々の戦いだ。おまえらの入る隙間はねえよ」


 レイドエルシュナが笑った。その顔面に拳がめり込む。不意の一撃だった為、まともに喰らったレイドエルシュナは数メートル地面を転がり仰向けに倒れ込んだ。

 しばらく動かなかったのだが何事もなかったかのように上半身を起き上がらせると、ニタリと笑みを浮かべて言い放つ。



「それが、神殺しの力か人間? そんな拳じゃあ、俺の鱗を砕くこともできねえぞ?」



 嬉しそうに笑うと、すっくと立ち上がりレイドエルシュナは俺のことを睨み付けてきた。

 俺はレイドエルシュナを殴った震える拳を突き出したまま奴の目を見据え言い放つ。



「いいかげんにしろよこの糞野郎があああああああっ!」




 つづく。

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