第二百二十一話 魔界に吹く風②

「エンジェリック・マーヴル・レインボーッ!」

「エンジェリック・マーヴル・レインボーッ!」


 双天使の放つ必殺の一撃が魔星達の群れを蹴散らす。はっきり言ってこの二人の強さはチートであった。ローリンもそうだけど、天使達の強さは異常である、これはクリスタルドラゴンであるクリューシュが警戒するのも頷けるレベルだ。そもそもローリンは拳で火竜の鱗を割ったしな。

 そう言えばソフィリーナが言っていたっけ、天使とは自分達とは別次元の神みたいなもんだって。目の前の無双を見ればそれも納得できるよ。とにかく魔星の皆さんは御愁傷様でした。せっかく出張ってきたのに、一人一人名乗り口上をあげることもできず、これといった活躍シーンもなく散って行く様は、敵ながら同情の念を禁じえない。


 そして、しばらくすると辺りは静かになる。目の前は死屍累々、死体の山が築かれていた。見た目は可愛くてもこの娘達には、ローリンが時折見せる狂気のようなものを感じてしまうよ。


「これで、72の魔星も三分の二は減らすことができました」

「メルルシャイム。威張るようなことではありませんよ。悪魔などをいくら蹴散らしたところで、私達天使にとっては当然のことですから」


 うわぁ……。なんかさらっと怖い事を言ってるよぉ。


 俺が結構ドン引きしながら二人のことを見つめていると、クリューシュが声を上げる。


「おまえら、遊びはそこまでだ……。本命のお出ましだぞ」


 そう言うクリューシュの視線の先。俺達は振り返るとその背後からゆったりと歩み寄ってくる男は見覚えのある奴、いや、忘れるはずもない。ぽっぴんの攻撃魔法を喰らってもピンピンしていて、メームちゃんと互角以上に渡り合ったこの男のことを忘れるはずがないっ!


「アモンのファドウキラ……」


 俺がその名を口にすると、アモンはまるで仇を見るような目で俺のことを睨み付けてきた。


「人間の男、きさまに受けた屈辱は忘れもしないぞ。たかが人間風情が、悪魔であるこの俺の体に傷を負わせたのだっ! 絶対に許しはしないぞおっ!」


 おお、なんだなんだ? そんなことを根に持ってたのか。なるほどな、この異世界に来て遂に俺も、こんな強敵ライバルに巡り合うことができたってわけだ。いいぜ、だったら相手になってやるぜ、竜力転身……いや、超竜力転身の力を手に入れたこのべんり様がなあっ!


 神殺しの力を手に入れた今の俺なら、竜力転身によって魔星三巨頭になったアモンにも後れはとらないだろう。いや、むしろ俺はパーティの中でも最強クラスの力を手にしていると言っても過言ではない。きたんじゃね? オレツエエエエエエエエ系無双ハーレム主人公展開きたんじゃね?


「エンジェリック・マーヴル・レインボーッ!」

「エンジェリック・マーヴル・レインボーッ!」


 そんなことを思っていると、他の奴は眼中になかったのか。隙だらけのアモンに向かって双天使が無慈悲な一撃を浴びせた。アモンは悲鳴を上げながら宙を舞い、頭から地面に叩きつけられると、呻き声をあげながらもがいていた。


「く……くぅ……。なんという力だ……。何者だ? この力は、神にも匹敵する……」

「おまえ……馬鹿だろう」

「やめてやれべんり、こいつのライフはもう0だ」


 蔑むように俺とクリューシュが見下ろしていると、3メートル程離れた大きな岩石の上から声が響く。


「無様なものだなアモンっ! 魔星三巨頭の一角を担いながら、人間とその仲間、しかも女に後れを取るとはっ!」

「よせバルバトス。あの二人からは神々にも匹敵する力を感じる。私達も気を引き締めていかなければ、足元を掬われるぞ」


 そう言うと二人は、「とうっ!」と言って、岩の上から飛び下りた。そして、膝を突くアモンの傍らに立つと俺達のことを見据える。


「バエル……バルバトス……。あの男は俺が殺る。絶対に手出しはするなよ」


 バエルにバルバトス。なるほど、こいつらが魔星三巨頭、残りの二人ってわけか。つまり、今ここに魔星三巨頭が揃ったということになる。なんだか厳めしい感じのアモンと違って、この二人は美形だなくそったれめ。


 すると、バエルと呼ばれたほうの男が一歩前に踏み出して話し始めた。


「なるほど、きみがアモンに傷をつけたという人間か。クルーシュナルミルオラの血によって竜力転身したとはいえ、たかが人間がそんな力を手に入れるとは思えないが」

「残念だったなバエル。それだけではない。べんりは時の歯車の力によって、摂理越えの力をその身に宿していたのだ」


 え? なにそれ?、初耳なんだけど?


 その言葉にメルルシャイムとミルルフィアムも驚いた表情をみせる。


「まさか、べんりにそんな力が……。単なる冴えない底辺バイトくらいの奴だと思ってました」

「ミルルフィアム……僕は最初から気づいていたのですよ。ほんとですよ?」


 相変わらずさらっと悪口を言うミルルフィアムに、ものすごく嘘くさいメルルシャイム。


「そんなことはどうでもいいんだよっ! いいぜアモン、あの男はおまえにくれてやる。俺とバエルはちびっこい女共を相手に暴れてやるぜっ!」


 あー、いるよね。強キャラグループの中に、こういう暴れたいだけの単細胞キャラって。こういう奴に限って噛ませ犬なんだよな。


 三巨頭の三人がそれぞれの相手の前に立ち構えを見せると、俺達もそれを迎え撃たんと構えた。


 べんりVSアモン。


 メルルシャイムVSバエル。


 ミルルフィアムVSバルバトス。


 お互いの視線がぶつかり合い火花を散らすのだが、突如全員がその場に現れた巨大な力に圧倒されどよめいた。


「な? なんだこの力は? わかるぞ、今までそんなのをまるで感じ取れなかった俺が、肌でビリビリと感じるこのパワーはっ!?」


 その気配をさぐり俺達はその方向を見ると、俺は驚愕の声を漏らした。


「おーいっ、底辺バイトーっ! 連れて来たぞーっ!」


 ぶんぶんと両手を振り回しながら歩いてくるぽっぴんだった。


 いや違うっ! その少し後ろ。


 力の塊の様な恐ろしい気配を纏い、阿修羅の様な剣幕で近づいてくるローリンの姿に、俺のみならずその場にいた全員。魔星三巨頭達も震えあがるのであった。




 つづく。

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