第二百十九話 双天使メルルシャイムとミルルフィアム②

 天使だ。本当にこの世界に天使は居たんだと俺は思った。驚く俺にメルルシャイムが近づいてくると、子犬の様に鼻をスンスンとしながら見上げてくる。


「くんくん、なるほどです。ミルルフィアム、どうやら話に聞いていたことは本当のようです」

「間違いないんですねメルルシャイム」

「僕の鼻が信用できないんですか? こいつからは、大天使様の匂いをとても強く感じるのです」


 大天使様ってまさか、クリューシュも言っていたローリンのことか?


 ミルルフィアムも近寄ってくると俺の顔を覗き込む。いや、俺より頭一つ分くらい身長が低いのでめいっぱい背伸びして見上げている状態だ。胸が当たってるよ?


「おまえが、べんりな奴ですか? う~ん、なんだか冴えない奴ですね?」


 いえ違います。ベンリー・コン・ビニエンスと名乗ってますけど、決して便利な奴ではないです。あと、さらっと悪口言ってませんかこの子?


 正直に名乗るべきか返答に困っていると、メルルシャイムが割って入る。


「間違いないですミルルフィアム。こいつがべんりです」


 ミルルフィアムを押しのけると俺に抱きつきながら、ちょっと不機嫌な感じで言うメルルシャイム。信用してくれないことに腹を立てているようだ。仕方がないといった様子でミルルフィアムは頷くと俺がべんりであると信用したようだ。まだ俺は名乗ってないけど。

 それを黙って見ていたクリューシュは、これまでに見せたことのないような強張った表情で、いや、これは警戒しているのかこの二人を?


「なぜ? なぜ、天使であるおまえらが魔闘神などと、なぜ魔王に仕えてなどいるんだっ!?」


 クリューシュはこれまでの余裕のある声から、少し強めの口調で問いかける。その質問に二人の天使は再び俺から離れ並び立つと笑顔で答えた。


「なぜって? リリアルミールは私達の大切な友人だからですよ」

「なぜって? リリアルミールは僕達の大切な友人だからですよ」


 言葉を続けたのはメルルシャイム。


「僕達はまだ生まれて600年程度の新米天使です。リリアルミールは僕達が生まれる前からずっと、地上に生きる全ての種族の者達の為に力を尽くしてきました」


 ミルルフィアムが変わる。


「私達は天使です。神の代行者として地上にある全ての命を見守るのがその役目。片翼となった私達が二人で一人の天使としていられるのも、リリアルミールのおかげなのです」


 なんだか話が飛び飛びでよくわからないが、要するにリリアルミールさんに大きな恩があるから、その恩返しの為に仕えているらしいと言う事はわかった。

 それにしても、天使が魔族の一員となり魔王の為にその力を使う事が、クリューシュには納得できない様子であった。俺の耳元で「奴らの目的がわからない、隙は見せるなよ」と更に警戒心を強めていた。


「そ、それで、二人はなにをしにきたの?」

「おまえはべんりですか?」

「そ、そうだけど?」


 ビシっと俺のことを指差しながら聞くメルルシャイム。なんか丁寧語なんだけど言葉使い荒いよなこの天使達。俺が自分達の探していたベンリー・コン・ビニエンスであると確認がとれると、二人は手を繋ぎニコニコとしながら同時に話しだした。


「おまえの助けになるようにとリリアルミールに頼まれたのです」

「おまえの助けになるようにとリリアルミールに頼まれたのです」


 やっぱり、結局お見通しだったと言うわけだ。止めても聞かないだろうということはわかっているし、あの人はいつもそうやって皆のことを心配して、心を痛めながら一緒に戦ってくれているんだ。ありがとうリリアルミールさん。


 クリューシュは天使の二人がついてくることを納得していない様子であるが、拒否しても無駄だろうと思ったのだろう。なにも言わずに不貞腐れているのであった。


「まあ、そう邪険にするなよ。竜族おまえたちと天使の関係とか知らないけど、助けてくれるって言ってんだしさ」

「おまえは天使のことを何も知らないからそう言えるんだ。あいつらの狡猾さは、悪魔以上だぞ」


 その言葉にムっとした表情でミルルフィアムが言い返す。


「それだけ私達天使は賢いという事です。単細胞のドラゴンにはそれが狡猾に映るのでしょう」


 それに対して見るからにイラついた様子のクリューシュ。なんなんだ? 完全に水と油じゃねえかよ。ドラゴンと天使って仲悪いのか? やれやれだぜ。


 睨み合う三人の女子達を見て俺はなんだか懐かしさのようなものを感じると、少し寂しい気持ちになる。



 そういやもう、どれくらいあいつら三人と一緒に……。



「おいおい、なんだなんだ? こんなところに可愛い女の子が三人もいるじゃねえかあ?」


 突如聞こえる声、次元の歪みの中から数人の男達が現れてクリューシュと双子天使達に絡んでいる。

 あれは? 魔星72体か? て言うか、女の子をナンパしている輩にしか見えない。なんにしても向こうから現れたということは魔界の住人であることは間違いない。

 俺は三人を助ける為に力を解放しようとするのだが、メルルシャイムが声を上げた。


「べんりっ! 雑魚は僕達に任せておまえは力を温存しておけっ! ミルルフィアムっ!」

「メルルシャイムっ! 行きますよっ!」


 二人が手を繋ぐと片翼は両翼となる。そして、輝く光輪が二人の頭上に現れる。


「エンジェリック・マーヴル・レインボーッ!」

「エンジェリック・マーヴル・レインボーッ!」


 それはまるで初代プリ○ュアの必殺技のよう。二人が繋いだ手を突きだすと虹色の光が放たれ魔星達を飲み込み跡形もなく消し去った。



 ふたりは天使、最強の魔闘神が俺達の仲間に加わるのであった。



 つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る