第二百十二話 竜の姫君と呪われし力④

「ア……アモンだと?」

「え? べんりくん、知ってるの?」


 俺の反応に驚くソフィリーナ達。当然だろう、こんな有名な奴を知らないわけがない。いや、むしろ知らない奴がいることのほうが驚きだ。これがジェネレーションギャップと言うやつなのか? ていうか俺も世代ではないけどな。


「当然だ。アモンと言えば序列7位の戦闘特化型悪魔。かの有名なデビル○ンのことじゃないかっ! おまえら本当に知らないのかよ?」

「知らないわよそんなの」


 俺の説明にドン引きのソフィリーナ。ぽっぴんとメームちゃんも軽く引いている。しかしそれを聞いていたクリューシュは神妙な面持ちになり首を振った。


「序列七位? なにを言っているんだ。奴は魔星72体の中でも最強と謳われる。魔星三巨頭。バエル、バルバトス、アモンの名を冠する一人だ」


 あーそっち? ここ最近有名になったそっちのほうかあ。俺、異世界こっちに飛ばされちゃったから最終回見てないんだよねっ!


「まあそんなことはいい。アモンのフドウアキラと言ったか?」

「違う。ファドウキラだ」


 あ、ごめんね間違えちゃった。


「クリューシュに代わって説明をすると言っていたな……ならば説明して貰おうっ、お願いしますっ!」

「なんだきさまは? 俺のことを馬鹿にしているのか?」


 こめかみに血管を浮き上がらせながらプルプルと震えているアモンは大変お怒りの様子であった。そんな俺のことを見ながら「流石べんりくん……やはり人を怒らせる天才か」と皆が口々に言っている。そんな才能いらねえよ。

 するとクリューシュが俺達のやりとりに口を挟んできた。


「ファドウキラっ! 兄上の命でやってきたのかっ!?」

「そうだ、レイドエルシュナはおまえのことを心配している。戻って来い俺達の元へ、どうしてそうまでして人間に肩入れをするのだクリューシュナ?」


 兄上? 人間に肩入れ? なんだかまた複雑な話っぽいな。そういう身内のいざこざをこのコンビニに持ち込むなよなぁ。


 俺がうんざりしているとアモンは俺の方へ向き直り言い放つ。


「そう言うわけだ人間。きさまらを殺してクリューシュナは連れ帰らせて貰う」

「いやいやいや。全然説明になってないんだけど? なんで戦争してんのか説明しろよおっ!」


 アモンのことを右手で指差しながら言うのだが、その瞬間、俺は右手に違和感を感じた。

 風船の破裂する様な音がしたかと思うと、俺の右腕の肘から先がなくなっていた。それは肉も骨も残さず粉微塵に弾け飛び、蒸発した血煙だけが宙を舞う。



「次は頭を吹き飛ばす」



 冷酷な、とても冷たい凍てつく金色の瞳で、俺のことを見下ろすと拳を振り上げるアモン。


「バーニングっ! ヘルフレアアアアアアアアアアアっ!」

「ゴッデスミラアアアアアアアアアアアっ!」


 俺の周りをオーロラの鏡が覆うと、獄炎魔法がアモンに襲い掛かった。その間にマーク2が俺のことを抱え上げてコンビニの中へと連れ込む。


「A25っ! 早く止血をっ! べんりさんっ、しっかりしてください。すぐに手当をしますからっ!」

「それよりもぱわびたんもってきたっ! はやくのませてっ!」


 慌てるアンドロイド二人を窘めるようにメームちゃんが指示をだしている。俺は今の状況がまったく理解できないでいた。壊れた蛇口の様に俺の肘からは赤い水がじゃぶじゃぶと流れ出しているのだが痛みはまるで感じない。現実味を帯びないこの光景に頭がついていかない。一体なにがどうして……。


 メームちゃんが俺にパワビタンを飲ませようとした瞬間、凄まじい爆音が響くと店のガラス窓が粉々に砕けて爆風が店内を暴れ回った。棚は倒れ商品が散乱する。A25が俺の上に覆いかぶさり身を盾にしてくれていた。


「べんりさん。落ち着いて深呼吸して。気を失わないでくださいねっ!」


 そう言うと右腕の傷に丸めたエプロンを力強く押し当ててきた。その瞬間、俺は激痛を感じてようやく自分が右腕を失ったことを理解した。


「ぐっ、あああああああっ! いてえええっ! ちくしょうっ! いてええええええっ!」

「べんりさんっ! 我慢してくださいっ! 今は一刻も早くこの血を止めないといけないんですっ!」


 物凄い力で俺のことを押さえつけるA25は、俺の口元に腕を持ってくるとめいっぱい噛めと言ってきた。

 くそぉ。なんでこんなことになってんだ? パワビタンで元通りになるのかよこの腕? え? 俺、隻腕バイトになっちゃうの?


 爆風が止むと店内に何かが飛び込んでくる。それはソフィリーナとぽっぴんであった。

 二人は床を転がると呻き声をあげて倒れているのだが、震える手で身体を起き上がらせると再び立ち上がる。


「ソフィ……リーナさん……最……大の、防御をお願いします」

「わ、わかってるわ……ぽっぴん……」


 二人も満身創痍であった。ぽっぴんはおそらく最大最強の魔法を放つつもりだ。そうでもしなければ勝てない相手なのだろう。ぽっぴんが杖を構えなにか呪文をブツブツと呟いていると、外からクリューシュの声が響いた。


「ポッピヌプリム全力でやれっ! こいつを倒せなければこの先、神々との聖戦を戦い抜くことなど到底できはしないぞっ!」

「やはりそれが狙いかあっ! クリューシュナああああああっ!」


 クリューシュの言葉に怒声を上げるファドウキラ。それを後目にぽっぴんは呪文を唱え終えると二人に向かって言い放った。



「私はぽっぴんぷりんだくそやろうっ! エクスプロオオオオオオオオオオジョンっ!」




 つづく。

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