第二百十話 竜の姫君と呪われし力②
「またか」
「またですね」
「また」
コンビニへ戻ると、ソフィリーナとぽっぴんとメームちゃんが、俺のことを見るなりそう言ってきた。A25とマーク2は、なにがまたなのかよくわからず不思議そうな顔をしていた。そしてソフィリーナは右手を額に当てるとうんざりといった様子で続ける。
「もうこれは体質ね。べんりくんは街に出ると女の子を拾って来るっていう、ラノベ主人公の様な体質の持ち主なのよ」
「どういう体質だよそれ」
「自覚はないのね。まったく、こないだもルゥルゥを拾って来てエライ目にあったってのに、またそんな子を拾って来ていい加減にしてちょうだいっ!」
その言葉に皆、うんうんと頷く。A25とマーク2もなるほどと言った様子で手を打っていた。
ていうか別に俺はクリューシュのことを拾ってきたわけではない。成り行きで助けてしまったんだからしょうがないだろう。大体、犬や猫みたいな言い方をするんじゃねえよ。
俺は皆に経緯を説明するのだが異口同音。全員が「やっぱり」「想定内ですね」「だとおもった」と、大体予想通りみたいなことを言うのだ。なんか釈然としねえ。
そんなこんなで行く当てのないクリューシュのことをどうするかと揉めていると、突如ぽっぴんが大声を上げながら俺の背後を指差さした。
「あああああああっ! あのやろうっ! そのプリンは私のだああああああっ!」
どうやら間もなく廃棄になるので狙っていた新商品のプリンだったらしく、それをクリューシュが食べていたのでお怒りの様子。ぽっぴんはプリンを奪い取ろうとクリューシュに飛びかかるのだが、ひらりと身を躱されて床を転がった。
「むぅぅぅぅうううううっ! なんと言う卑劣な奴なのですかっ! 今か今かと待ち侘びていたのに、廃棄時間前にそれを掠め取るなんてルール違反も甚だしいですっ!」
涙目で抗議するぽっぴんであったがクリューシュは意にも介さない。悪びれた様子もなく、別のスイーツを手に取るとこれも食べていいかと俺に聞いてくるのであった。
とりあえず第一印象は最悪である。特にぽっぴんはクリューシュのことを異様に敵視して、家で預かるのはまっぴらごめんだとおかんむりなのであった。
「べんり。いいかげんにしないとめーむもあいそがつきる」
「ごめんねメームちゃん。でも、このまま放っておいたらまた地上で盗みを働くだろうしさ」
「ここにいてもすでにはたらいてる」
ごもっともであります。とにかくクリューシュには後でお説教してやるとして、いい加減この店も居候が増えすぎて狭くなってきたなぁ。そんなことを思っているとクリューシュが俺の服の裾をつんつんと引っ張りながら訪ねてきた。
「ねえべんり。その魔族の子はなあに?」
「え? メームちゃんのこと?」
「うん、その子も食べていいの?」
俺が聞き返すのと同時、メームちゃんが叫んだ。
「離れろっべんりっ!」
次の瞬間、全員が店から飛び出す。俺はメームちゃんに首根っこを掴まれて引き摺りだされた格好だ。なにがなにやらわからずにキョロキョロしていると、隣に居たソフィリーナが険しい表情で呟いた。
「まあこれも想定内っちゃ想定内だけど。べんりくん、あなた、何を連れて来たの?」
一体どういう意味だ? 周りを見ると、ぽっぴんは杖を構えマーク2も剣を取り出し戦闘態勢に入っている。メームちゃんも成人体になり店の中に居るクリューシュのことを忌々しげに睨み付けていた。
しばらくすると自動ドアがゆっくりと開き、中からクリューシュが出てきた。
「やだなぁ、冗談だよ。そんなに怯えなくてもいいよ。マギナと人間」
メームちゃんのことをマギナと呼んだ。と言う事は、クリューシュはシンドラントのことを知っているのか? まさかこいつも、ティアラちゃんみたいに義体を使って、こんな少女の様な姿をしているのではないかと思うのだがその予想は外れる。そしてすぐにクリューシュの正体はわかった。その姿に全員が息を飲み、そして絶望する。
姿を変えたクリューシュの正体は、あのマグマ地帯で出会ったクリスタルドラゴンであった。
―― 久しぶりだな。異界の人間とメタモマギナの姫よ ――
俺とメームちゃんのことをそう呼ぶクリスタルドラゴン。
「どうして、おまえが……」
―― 言ったであろう? いずれまたすぐに会えると ――
そう言うとクリスタルドラゴンの身体が光り輝き閃光する。そして再びクリューシュの姿に戻った。
クリューシュは俺達のことを一人一人見つめると大きく息を吸い話し始める。
「時空を超越せし人間べんり。時の神に仕えし女神ソフィリーナ。超古代の、魔法の民の末裔ポッピヌプリム。そして人の作りし
そう言うクリューシュはなにもかもお見通しといった様子で笑った。俺達はもう色んなことに呆気にとられてしまいなにも言えずにいると、更にクリューシュはとんでもないことを言いだす。
「どうやら、天界の大天使の生まれ変わりであるローリンはこの場には居ないみたいだな。当然と言えば当然か。今頃は聖騎士としての責務を果たすべく、北の大地で邪竜共を相手に戦っているのだろう」
え? 今なんて仰いました? はあっ!? まじで? ローリンが天使の生まれ変わり?
さらっと、とんでもない事実を口にするクリューシュであったが、あの人間離れした力はそういうことだったのかと、その場に居た全員が合点がいくのであった。
つづく。
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